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将棋界のスーパースターが新たに打ち立てた金字塔に、ファンならずとも心が躍ったことだろう。
羽生善治九段が歴代1位となる通算1434勝を挙げた。史上最強といわれた大山康晴十五世名人の記録を27年ぶりに更新した。
48歳8カ月での記録達成は、大山十五世名人の69歳3カ月を大きく上回る。快挙をたたえたい。
1989年に初タイトルを獲得し、平成の将棋界をけん引してきた。史上初の7冠同時制覇と永世7冠達成、通算タイトル99期、将棋界初の国民栄誉賞など、数々の偉業を成し遂げた。
しかし近年は、29歳の豊島将之名人、初タイトルを狙う16歳の藤井聡太七段ら躍進する若手を相手に、苦しい戦いも強いられてきた。
昨年は前人未到のタイトル100期に王手をかけながら竜王戦に敗れ、27年ぶりの無冠となった。そうしたなかでの大記録達成だ。
羽生九段の強みは、負けを引きずらない精神力の強さ、とりわけ衰えることのない探求心だ。
「九段」の肩書での再出発となったが、今年に入りNHK杯将棋トーナメントを制し、名人戦A級順位戦で2位の成績を上げた。
はるか高みに思われた記録更新は、そうやって一局一局勝ちを積み上げてきた不断の努力の結果だ。
30年以上、長いスランプもなく第一線で活躍を続けるのは並大抵ではない。若手の台頭を原動力に、驚異的な進歩を遂げた人工知能(AI)も活用し、最新の戦術研究を怠らない。だからこそ進化を続けられるのだろう。
大山十五世名人は90年に棋士として初めて文化功労者に選ばれた。その際、「将棋は『勝負の世界』と見られてきたが、文化として認めていただいた」と語っていた。
将棋は対局者2人で作る芸術作品にたとえられる。
記録更新をかけた今回の勝負でも、羽生九段がタイトル保持者の永瀬拓矢叡王を上座へとうながす姿が印象的だった。礼やしきたりを重んじるのも文化たるゆえんだろう。
次の節目であるタイトル100期、1500勝に期待をしたい。そして、心打つ盤上のドラマも楽しみにしたい。