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麗しの島から

天安門事件30年 香港で中国人に本音を聞いた

追悼集会の会場で、犠牲者の慰霊碑を見つめる中国人男性(左手前)=香港中心部のビクトリア公園で2019年6月4日午後7時14分、福岡静哉撮影

 北京で民主化を求める学生らが中国軍に鎮圧された天安門事件は4日、発生から30年を迎えた。香港には、事件の犠牲者の遺品や当時の資料などを展示する「天安門事件記念館」(中国語は「六四紀念館」)がある。今月2日に訪れると、強い巻き舌の特徴的な中国語で話す中国人男性が香港市民と議論していた。この日に合わせて本土から香港を訪れたという2人の中国人が本音を語ってくれた。

「中国政府は人民に信用されていない」

 香港は1997年に英国から返還され、中国の一部となった。「1国2制度」のもとで中国と法体系が異なり、言論の自由も保障されている。ところが2014年に開館した記念館は入居するビルの管理業者から「契約違反」と指摘され、16年に閉館に追い込まれた。別の場所に移転して今年4月下旬、再オープンにこぎつけた。

 記念館の職員と天安門事件の真相について議論をしていた27歳の中国人男性、陳さん=仮名=にまず話を聞いた。天安門事件後に生まれた世代だ。中国北部から来たという。日本人記者だと告げると少し警戒されたが「記者はとても客観的に物事を見てくれる。私の気持ちを隠さず話したい」とインタビューに応じてくれた。

 ――天安門事件について調べているのですか。

 陳 そうです。中国では天安門事件に関する情報がインターネット上も含めて完全に遮断されている。外国人は驚くかもしれませんが、今の中国人は本当に事件について何も知らない。ここには当時の新聞記事や資料などがたくさんあると聞いて来ました。

 ――天安門事件や、今の中国政府についてどう思いますか。

 陳 中国政府は、戦車を使って若者を弾圧すべきではなかった。この責任は政府が負うべきです。この40年来、中国は「改革開放」の号令のもとに、人民の安価な労働力に頼って最大の利益を生み出してきた。中国の共産主義社会の最大の問題は「共産」(共に産む)はするものの「共享」(共に享受する)が欠落している点です。権力はごく少数の人たちの手中にあります。大半の人々は権力も権利もない。しかし中国では大学教授ですら、恐ろしくてこうした事実を指摘できない。みんな怒っているが、言えば失業する。私の周囲にも、今の体制に疑問を持っている人は多い。

 ――友人たちと中国本土でもこうした議論をすることがありますか。

 陳 天安門事件の真相について議論する小さな集まりがあり、ひそかに入手した資料などに基づいて隠れて議論しています。でも私たちも、公の場では怖くて絶対にできない。ここで日本人記者のあなたと話ができるのも、香港にまだ言論の自由があるから。中国の若者は特に、天安門事件を知っている人は本当に少ない。ここで得た情報を中国本土で、できるだけ多くの人たちと共有したい。

 ――香港の自由は近年、揺らいでいます。

 陳 香港人が経済的利益を追い求め、言論の自由や集会の自由といった最も大切にすべき価値を守ろうとしなくなれば、遅かれ早かれ、中国政府によって陥落させられるでしょう。

 ――中国の未来に希望はありますか?

 陳 希望はありますよ。なぜだか分かりますか? すでに中国政府は人民に信用されていないからです。

 後方からの写真撮影をお願いしたが「個人が特定される恐れがあるからやめてほしい。私が香港に来ていることも中国当局に把握されていると思う」と断られた。

拘束覚悟で香港での集会に参加

 次に取材を受けてくれたのは中国南部から駆けつけた会社員、林さん(30)=仮名。笑顔をたやさない快活な男性だ。天安門事件の犠牲者を追悼するため4日に開かれる大規模集会に参加するつもりという。出身地を聞くと、身分証明書を見せてくれた。林さんもインタビューに応じてくれた。

 ――台北から取材に来ました。

 林 台湾は民主主義を実現している。議会でよく口論や乱闘があると聞いているけれど、それも民衆のための議論だから素晴らしい。台湾は中華圏の希望の光。中国の進むべき道を示してくれていると思います。

 ――集会に参加すると中国当局に拘束される恐れがあるのではないですか。

 林 集会にいるところを写真に撮られ、当局に知られると、両親や職場に連絡が回るでしょうね。顔が分かるような写真を撮影されないように注意します。香港はまだ、自由がある程度は保障されている。周囲に政府のスパイがいると気にしなくていいのでありがたい。

 ――集会に参加したら拘束されるかもしれないのでは?

 林 覚悟しています。4日は、民主化のために闘い犠牲となった先輩たちの冥福を祈り、追悼したい。中国共産党の体制下で生きることは自由が全くなく、本当に息苦しい。中国には民主化が必要です。今は難しいと思いますが、希望を捨ててはいけない。私一人の力は小さいかもしれないが、中国の民主化を前に進めるために、少しでも力になりたい。

 林さんは後方からの写真撮影に応じてくれた。集会当日の取材も快諾してくれた。落ち合う時間と場所を約束し、別れた。

 4日夜、林さんは約束通りの時間に、指定の場所に現れた。午後8時から始まる追悼集会を前に、会場には既に多くの市民が集まっていた。林さんは犠牲者の慰霊碑の前に立った。「民主化のために闘い、犠牲となった先輩たちをとても尊敬している。殺された先輩たちの無念を思うと心が痛む」。そう言った後、3度、慰霊碑に向かって深く礼をした。

 「また来年も会えたらいいね」。林さんはそう言って笑顔で手を振り、群衆の中へと消えていった。【福岡静哉】

福岡静哉

台北特派員。1978年和歌山県生まれ。2001年入社。久留米支局、鹿児島支局、政治部などを経て2017年4月、台北に赴任した。香港、マカオのニュースもカバーする。

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