サウナから凍った川の中へ 本場フィンランドの「アバント」は「地獄のように冷たく、天国のように気持ちいい」
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サウナで体を温めてから、凍った川の中へ--。日本のテレビではたびたび罰ゲームのように取り上げられるが、本場フィンランドでは最高のぜいたくとして人気が高い。フィンランド政府観光局は「It's cold as hell, feels like heaven(地獄のように冷たく、天国のように気持ちいい)」というコピーのポスターを作るなどしてその魅力を発信する。日本でも、サウナ愛好家「サウナー」たちの間では「いつかやってみたい」と注目を集める。フィンランド北部ラップランド地方で実際に体験してみると、本当に天国が待っていた。【中嶋真希】
ヘルシンキから飛行機で1時間。冬のラップランド地方は、スキーやオーロラ観賞、犬ぞりなどが楽しめることから、ヨーロッパ中から観光客が訪れる。その中でも最大級のリゾート地がレビ。レビの中心街から車で20分ほどのところに、サウナ後の「アバント」ができる施設「エルブス・ハイドアウェー(エルフの隠れ家)」がある。サンタクロースに会ったり、犬ぞりを体験したりできる観光施設だ。この敷地内にサウナ小屋があり、レビでガイドの仕事をするアリ・クルラさん(53)が案内してくれた。
まきストーブで温めた石に水をかけ、蒸気が上がるとサウナの温度は一時90度を超えた。クルラさんは、じっと熱波を感じていた。「サウナのないフィンランドなんて、想像もできない」とクルラさん。国会議事堂にもサウナがあるフィンランドは、国内に200万~300万個のサウナがあると言われている。クルラさんの自宅にも、サウナがある。「かつて、ラップランドの先住民族サーミ人が、コタ(テントのような住居)の中でたき火をしたのがサウナの起源と言われており、周辺国にも広がった。スウェーデンなどの周辺国もサウナが好きだけど、フィンランドが一番」と誇らしげだ。
靴下をはいて雪の中へ
十分に汗をかいたら、クルラさんがウールの分厚い靴下をはいて、外に出る。目の前の凍った川は、雪に覆われて真っ白。小屋から50メートルほど歩くと、凍った川に穴が開いており、はしごをつたって中に入れる。氷に穴を開けて中に入ることを「アバント」という。水温は、1度。クルラさんは靴下をはいたまま水につかり、数秒で外へ。「すぐに出ることが大事」らしい。

記者も意を決して、氷の中へ。経験したことのない冷たさに、思わず叫び声を上げてしまう。すぐに外に出ると、足の裏が刺すように痛い。「冷たい」「痛い」と叫びながら小屋に向かって歩き出すと、10秒ほどで体がポカポカとしてきた。サウナとアバントを何度も繰り返すうちに、「早く水につかりたい」とすら思うようになる。確かに、天国のような気持ち良さだ。
この日、一緒にアバントを初体験し、「すごい」と興奮していたのは、フィンランドの航空会社「フィンエアー」大阪支店の北野憲さん(38)。12年前にフィンエアーに入社し、何度か出張でフィンランドを訪れるうちにサウナの魅力を知った。ここ数年、日本でサウナブームが起き、北野さんも情報発信に努めてきた。夢だったアバントを体験し、「水温が1度と聞いて、『体が痛くなるのでは』と思っていたが、サウナで十分温まっているから、水の中で熱の衣に包まれた」と笑顔だ。
ハマって別荘建てる人も
「フィンランドでも、アバントの魅力にはまって川や湖の近くに別荘を建てる人がいる」とクルラさん。エルブス・ハイドアウェーのサウナも、冬の間は予約がないと入れないほどの人気だ。「サウナは、命が始まり、命が終わる場所と言われている。人々が森で暮らし、病院もなかったころ、サウナは出産や、人が亡くなった時に清める場所としても使われていた。祖父母が生まれたのもサウナの中だった」と、フィンランド人がサウナにかける並々ならぬ思いを語る。
アバントが体験できるのは、川が凍っている間だけ。5月には雪解けしてアバントができなくなるが、夏の間は川や湖に飛び込んで泳ぐことができる。北欧旅行を手がける旅行会社「ツムラーレ」の澤井宣宏大阪支店長(46)は「アバントを何度か繰り返してサウナを出た後の自分を取り巻く空気が優しく感じる」と話す。「フィンランドはどのシーズンに来ても自然の中のサウナが体験できる。サウナに興味がある人もない人も、気軽に体験してほしい。何歳になっても童心に帰れる」と本場のサウナを熱く語った。