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後継ぎが、傾いた企業を「第二の創業」 家業生かし発想転換で立て直し

シャツとして着れば、心拍などの生体情報を取得でき、胸についた発信器でデータを送れるウエアラブル端末「hamon」と、端末について説明するミツフジの三寺歩社長=東京都千代田区のオフィスで2019年5月20日、釣田祐喜撮影

 世代交代によって、家業に新しい発想を取り込んだり、変化を加えたりして、成長する企業がある。事業を引き継いだ「後継ぎ」が、新しい風を吹き込むことで苦難も乗り越え、第二の創業を果たしている。

スマホに着ているシャツから生体情報

 スマートフォンの画面にグラフが表れ、ストレスの大きさや眠気の強さが示された。何の変哲もない黒色のシャツが、着た人の心拍などの生体情報をスマホに送り、分析され視覚化される。「hamon」ブランドで売られるこのシャツは、繊維メーカー「ミツフジ」(京都府精華町)製。同社の東京のオフィスには、商談に訪れる企業関係者が後を絶たない。シャツは、3代目社長の三寺歩さん(42)の苦しみの産物だ。

銀をメッキし、電気を通すミツフジの糸=同社提供

 三寺さんは大手電機メーカーや外資系IT企業を経て、2014年に家業を継いだ。同社は1956年、西陣織の帯工場として創業。父で2代目の康廣さん(71)の代には布団に使うレースなども手掛けたが業績は低迷した。三寺さんが会社を手伝い始めても打開せず、事業資金として自腹で約2000万円を投じ、「底なし沼のような恐怖を覚えた」という。

 転機は、康廣さんが90年代前半から生産していた銀をメッキした糸に着目したことだった。抗菌や消臭効果があり、靴下メーカーに売り込んでいたが、電機メーカーにも毎月少しずつ売れていた。抗菌効果よりも電気を通す性質が高く評価されていた。導電性に優れた銀の糸を生かせないか考え、ウエアラブル端末の開発に乗り出した。

 銀の糸は、心臓が発する微弱な電気をキャッチし、シャツに取り付けた発信器から無線で送信する。女性用下着大手ワコールとはストレスの大きさを計測できるブラジャーを開発した。従業員の健康管理やスポーツ選手のトレーニング向けシャツへの活用も期待される。「親や先祖が作った資産を生かして成長の可能性を探る。後継ぎならではの強みです」。三寺さんは自負する。

平安伸銅工業の突っ張り棒製品と竹内香予子社長=大阪市西区で2019年5月21日、平川義之撮影

突っ張り棒で培った技術を活用

 「平安伸銅工業」(大阪市)は、室内などで洋服をつるす突っ張り棒で培った技術を活用し、DIY用の商品「ラブリコ」を開発した。16年の発売以来、約33万個を売り上げ、成熟市場とされる日用品を扱う業者としては異例のヒットを飛ばしている。

柱状の収納スペースなどを設けたい場合に柱の両端に装着して使う平安伸銅工業のラブリコ。上端側についた調整ねじを回して伸縮させ、柱を固定できる=同社提供

 ラブリコは、部屋に新たに柱状の収納スペースなどを設けたい場合に活用できる。立てたい柱の上端と下端に装着する器具で、天井や床との隙間(すきま)を埋めて固定するのに使う。固定の技術は、物と物の間に棒をはさむ突っ張り棒のノウハウが生かされている。

 創業者の孫で3代目社長、竹内香予子さん(36)が発案。自宅をDIYで好みの部屋にしようとした際、使いやすい部材が少ないことから思いついた。空き家を好きな内装にアレンジする暮らし方が注目を集め始めていた。部屋のイメージに合わせやすいように3色を発売。「かわいい」「おしゃれ」とソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で評判となった。

 竹内さんは、父で2代目の笹井康雄さん(66)に請われて入社。15年に社長になったが、突っ張り棒は他社との価格競争にさらされ「成長を見込めないオワコン(終わったコンテンツ)だと思っていた」と明かす。新事業も始めたが振るわず、結果的には既存事業を生かして活路を切り開いた。「今あるものの良さを生かし、事業を『改修』するのが私の役割だと気づいた。過去のおかげだと思えるようになった」と話す。

事業承継のイメージ

 ただ、こうして後継ぎへの事業承継が進んだケースもあるが、後継者不足は深刻化している。中小企業庁の推計では、25年までに70歳を迎える中小の経営者約245万人のうち、約半数の約127万人が後継者が未定とされる。後継者に事業を引き継げずに廃業すれば、従業員ら計約650万人の雇用が失われる計算となる。

 後継ぎを考える動きも出てきた。「バブル崩壊やリーマン・ショックなどの苦難を多くの経営者が経験した。『同じ思いをさせたくない』と考え、子どもらへの承継にためらいを感じる傾向が強い」と分析するのは、一般社団法人「ベンチャー型事業承継」の山野千枝代表理事。その上で「後継者がいないのではなく、決まっていないことが多い」と指摘する。

 山野さんは、家業を持つ学生に関西大が開講する「ガチンコアトツギゼミ」で講師を務める。家業を知り、若い感性も合わせて成長の可能性を探ったり、承継の道を考えたりする。山野さんは「まずは親子で膝を突き合わせて話し合ってみることが重要」と説いている。

M&Aの事業承継も7年連続増加

 一方、企業の合併・買収(M&A)を通じて事業を承継するケースもある。M&A助言会社のレコフによると、国内企業が関係するM&Aは7年連続で増え、18年は3850件に達した。後継者が見当たらない場合に銀行や仲介会社が支援し、別会社に運営を引き継いでもらう企業も多い。

 「いい会社に巡り合えた」。鉄道の発券端末のソフト開発などを手掛ける「インサイト」(大阪府豊中市)の前社長、九鬼隆章さん(69)は胸をなで下ろす。後継ぎがおらず、M&A仲介会社に依頼。セキュリティーシステム会社「セキュアヴェイル」(大阪市)を紹介され、事業を譲った。従業員の雇用は維持され、数千万円の借入金の個人保証も引き受けてもらった。同社は「インサイトには、当社にはないノウハウがあり、成長を見込めた」とM&Aに応じた理由を説明する。

 日本M&Aセンターの雨森良治上席執行役員は「M&Aはかつて、買収時に大幅なリストラなどを行うファンドの手法として注目された。だが、今では事業承継の手段としても浸透してきた」と話している。【釣田祐喜】

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