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欧州議会選 「緑の党」躍進は何を意味するのか

欧州議会選の速報を聞いて喜ぶ緑の党のアンナレーナ・ベーアボック代表(前列右から2人目)ら=ベルリンで5月26日、AP

 5月23~26日に行われた欧州議会選挙のサプライズの一つは、「緑の党」系環境政党の躍進だった。左右の中道勢力が初めて過半数を割って分極化が進んだ欧州議会で、4番目に大きな会派として多数派形成の鍵を握る。気候変動の危機を最も大事な政治課題と位置づける若者たちが、欧州に「緑の波」をもたらした。

ドイツでは政党別で2位の得票率

 緑の党の躍進を報じた複数の欧州メディアは「グレタ効果」と呼んだ。スウェーデン人の少女グレタ・トゥーンベリさん(16)が契機になった気候変動の危機を訴える若者たちによる抗議活動が、緑の党の支持拡大に影響したとの見方だ。

 一連の抗議活動は10代の若者たちが各地で火付け役となったが、参加者の層は親の世代などにも広がった。欧州議会選さなかの24日には世界規模でデモが連動し、主催者団体によると世界で180万人が参加した。域内の市民を対象に実施した欧州連合(EU)の世論調査では、気候変動対策を選挙の主要な争点と考える人の割合は、この半年間で若者と高学歴層を中心に上昇している。

 今回の欧州議会選で緑の党が最も成功を収めたのはドイツだ。得票率は20・5%で前回から倍増し、政党別では2位になった。出口調査によると、29歳以下では3人に1人が緑の党に投票し、若者による支持の高さを裏付けた。

 フランスでは得票率13・4%で政党別で3位に、英国では11・7%で4位だったが与党の保守党を上回った。ベルギーやオランダなど西欧、フィンランドなど北欧でも支持を伸ばした緑の党を中心とする会派は、定数751のうち74議席を獲得(6月6日現在)。改選前の52議席から大きく勢力を伸ばした。

 ベルギーのルーバンカトリック大学(UCL)のバージニー・バン・インゲルゴム特任准教授(政治学)は「この半年で欧州全域に広がった気候変動の危機を訴える抗議活動が有権者の関心を押し上げ、環境問題の争点化につながった。気候変動のような地球規模の問題は、(加盟国レベルよりも大きな)欧州レベルで取り組むべきだとの考えが広がっているのではないか」と指摘する。

気候変動の危機を訴える若者たちの中心となったグレタ・トゥーンベリさん。欧州議会選での「緑の党」躍進について、欧州メディアは「グレタ効果」と報じた=ストックホルムで2019年5月17日、八田浩輔撮影

 一方、緑の党は東欧と南欧ではほとんど議席を獲得できなかった。域内競争力で西欧や北欧の後塵(こうじん)を拝するこれらの地域では、経済や若年層の雇用問題などへの関心が高い傾向がある。また、グレタさんの地元スウェーデンでも議席を減らした。市民の環境意識が高いことで知られる同国では主要政党は明確な環境政策を掲げている。その中で緑の党は連立与党の一角を担い、政権運営への不満が今回の支持離れにつながった可能性がある。

反EU勢力に対する防波堤に

 欧州議会選の焦点の一つは、反EUや移民排斥などを掲げて支持を広げる右派ポピュリズム勢力がどこまで議席を伸ばすかにあった。

 結果は、議会を主導してきた中道の左右2大会派の合計議席が初めて過半数を割ったものの、リベラル系と緑の党を合わせた親EU4会派で3分の2を確保。緑の党の躍進は反EU勢力の「防波堤」として働いたことになる。緑の党系会派の共同代表を務めるフィリップ・ランベール欧州議員(ベルギー)は、選挙後の声明で「恐怖や分断をあおるすべてのナショナリストや極右勢力に立ち向かう」と強調した。

 1970年代に欧州の複数の国で結成された緑の党は、環境問題のシングルイシュー政党を脱し、近年は多国籍企業の税逃れ問題なども重点政策に掲げている。移民や社会的少数者の権利保護を一貫して訴えてきたことが今回、右派ポピュリズム政党への対抗軸となり、コアな支持層だけでなく、排外主義の広がりに危機感を持つ西欧の都市部のEU支持層の受け皿となった。

 英国の離脱決定を受けてEUの針路に注目が高まり、若年層を中心に投票率が大きく上がったことも有利な材料となった。欧州議会選は国政選挙と比べて有権者の関心が低いことが課題とされてきたが、今回の投票率は50・9%で前回を約8ポイント上回り、過去25年で最高だった。

 ブリュッセルのシンクタンク「フレンズ・オブ・ヨーロッパ」欧州・地政学部門のシャダ・イスラム部長は「主流だった左右の中道政党は、有権者の関心の高い移民問題などで十分な対応力を示せていない。これに対して『緑の党』のメッセージは明確かつ簡潔で、開かれた欧州社会を志向する若者を中心とする有権者を引きつけた」と総括する。

気候変動政策に一定の影響も

 余波は選挙後も続いている。ドイツでは今月1日に公表された世論調査で、緑の党が初めて支持率首位に立った。緑の党への支持拡大は今後、EUの気候変動対策や環境規制で一定の影響力を及ぼす可能性がある。当面の焦点は、温室効果ガスの長期削減目標だ。

 地球温暖化対策の新しい枠組み「パリ協定」は、産業革命前からの地球の平均気温の上昇を2度未満にとどめ、できれば1・5度に抑えることを目指す。これを達成するには、世界の国や地域が現在掲げる温室効果ガスの削減目標を大きく引き上げる必要がある。

 5月上旬にルーマニア中部シビウで行われたEU首脳会議で、フランス、ベルギー、デンマーク、ルクセンブルク、オランダ、ポルトガル、スペイン、スウェーデンの8カ国グループは、遅くとも2050年までにEU全域で温室効果ガスの排出量を「実質ゼロ」とすべきだと訴えた。

気候変動対策が欧州議会選の主要な争点となった一因は、各地で広がる若者たちの抗議活動だった=ブリュッセルで2019年5月24日、八田浩輔撮影

 「実質ゼロ」はカーボンニュートラルとも呼ばれ、排出する温室効果ガスを大きく減らすと同時に、森林による吸収分や地中に貯留する新しい技術などを組み合わせて相殺することを指す。パリ協定は今世紀後半に世界全体で「実質ゼロ」の実現を目指すが、前倒しを目指す8カ国の提案は、先進諸国の中でも野心的な動きだ。

 各地で気候変動の危機を訴えるための抗議活動を続ける若者たちの懸念に対応する意図もあった。8カ国グループは、気候変動との闘いをEUの今後5年間の政策の基盤と位置づけ、EU予算の25%を気候変動問題に充てるべきだとも提案した。

 50年までの「実質ゼロ」を目指す構想はEUの欧州委員会が昨年11月に発表済みだが、加盟国の受け止めには温度差が大きい。温室効果ガスの排出量の多い石炭火力への依存度が高いポーランドなどは否定的だ。一方で自動車産業への影響などを背景に当初は慎重だったドイツは、歩み寄りをみせ始めている。

 9月には米ニューヨークで気候変動を巡る国連の首脳級会合が開かれる。EUがそれまでに50年の長期目標に大筋合意し、「パリ協定」の順守に向けて世界を主導する姿勢を打ち出せるのか、注目が集まる。【八田浩輔/取材協力=アンソフィー・デマック】

八田浩輔

ブリュッセル支局 2004年入社。京都支局、科学環境部、外信部などを経て16年春から現職。欧州連合(EU)を中心に欧州の政治や安全保障を担当している。エネルギー問題、生命科学と社会の関係も取材テーマで、これまでに科学ジャーナリスト賞、日本医学ジャーナリスト協会賞を受賞(ともに13年)。共著に「偽りの薬」(毎日新聞社)。Twitter:@kskhatta

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