メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

余録

「軽薄さをここまで定着させてしまえば…

 「軽薄さをここまで定着させてしまえば、既に軽薄ではない」。1964年、田辺聖子(たなべ・せいこ)さんは「感傷旅行(センチメンタル・ジャーニイ)」で芥川賞をとったが、これは当時の選考委員、石川達三(いしかわ・たつぞう)の選評という▲その田辺さんはすぐ大衆小説誌に作品を書き始めた。純文学畑からは「文学修業がつらくて大衆小説に走った」との声も聞こえた。当の田辺さんは「そんなの『独り者の行水』や。勝手にゆうとれ(湯取れ)」。大阪人の反骨である▲大阪弁でフランソワーズ・サガンばりの恋愛小説を書くのが当時の目標だった。「方言は損ですよ」との忠告には、大阪弁を方言と思っている大阪人などいるかと居直った。ただ大阪弁を文学にするには表記に工夫をこらしたという▲軽妙洒脱(けいみょうしゃだつ)なユーモアで人生と恋愛の哀歓を描いた田辺さんである。当時出会って36年連れ添った伴侶(はんりょ)をはじめ世の中年男を「カモカのおっちゃん」に仕立て語らい続けた結論は、「万夫みな可憐(かれん)。男いとしむべし、愛すべし」だった▲こわばったもの、えらぶったもの、人を否定する心をすぐさま解かしてしまう田辺さんの言葉である。「人間社会を柔らかくするのは生きている者の義務だと思う」「神様はみんなに『笑って、ええ目をみいよ』と思っている」……▲「殆(ほとん)ど酔生夢死(すいせいむし)。人、呼んで楽天少女(ふうらいぼう)と謂(い)う」は、かつての文芸春秋の企画「私の死亡記事」に寄せた自らの「墓誌」である。91歳の訃報に、別のおりに残した言葉も思い出す。「過ぎしこと、<まあ>良し」

    おすすめ記事

    毎日新聞のアカウント

    話題の記事

    アクセスランキング

    毎時01分更新

    1. 米朝首脳「そっくりさん」大阪入り 「サミット成功願うよ」
    2. 埼玉県に9200万円賠償命令 訓練中の機動隊員溺死
    3. 三原じゅん子議員「愚か者の所業」って…「謙虚さ忘れた圧政者」と批判
    4. トヨタ「シエンタ」13万台リコール アクアなど6車種も エンジン防水不備で
    5. ノロウイルスで0歳男児が死亡 岐阜・各務原

    編集部のオススメ記事

    のマークについて

    毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです