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晴レルデ

おもい-つくる/17 求道者たちの化学反応

奥脇孝一さんが撮ったスピーカーの前面(右)と、建築家が駆り出された製品の寸法図(左) 写真・岩本浩伸

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 ドイツ・ブラウン社の工業デザイナー、ラムス氏のデザイン展「純粋なる形象-ディーター・ラムスの時代」(2008年11月~09年1月、サントリーミュージアム[天保山])。企画した学芸員の植木啓子さん、図録を作ったシマダタモツさん、印刷を担当したアサヒ精版印刷のマリさん(築山万里子さん)、それぞれの10年前--。


     マリさんが会社のロッカーをガサゴソ探して引っ張り出してきたラムス展の資料の中に、当時のスケジュール表が残されていた。それを見ると当初予定では、図録の入稿開始が08年8月22日で、展覧会の4日前に納品となっている。

     ところが実際には……。「10月14日入稿開始! 2カ月近くも遅れた。11月14日の内覧会の朝イチで納品したのを覚えてる」とマリさんは苦笑交じりに振り返る。なんでそんなに遅れたのかというと、前回述べたように、ドイツで撮るはずだった写真に満足いかなかったシマダタモツさんが「日本で撮ろう」と言い出し、急きょ展示品を1カ月以上前倒しして日本に送ってもらったからだった。

     展示品の大量の電気製品は、大阪市港区にあったサントリーミュージアム[天保山]の倉庫に保管。撮影はそこで9月に行われた。展示品には学芸員しか触れないので、植木啓子さんらが箱から出してカメラの前にセットした。

     撮影した写真家の奥脇孝一さんは、ライトは一つしか使わず、しかもカメラを固定して製品を動かすという手法を取った。これがラムス氏の、シンプルでありながら細部にこだわったデザインを、陰影を付けて際立たせたのだ。約300点の製品の全体像とディテールを10日がかりで撮った。「シマダさんには『奥脇さんがいいと思ったのを押さえて。何カットあっても大丈夫』と。タイトでハードだったけど楽しかった」。そう語る奥脇さんは「僕が今までやってきた仕事のエポックになる」と予感していた。

     倉庫は輸送に使われた木箱の山。そのすきまでの撮影の傍らで、建築家がひたすら展示品の寸法を測っていた。シマダさんが専門家の意見を聞いて「製品のスケール感がわかるから」と寸法図を付けることを提案。どうせならプロに測ってもらおうと、知り合いのラムス好きの建築家を呼んだのだ。こういう細かいところへのこだわりが、実にシマダさんらしい。

     寸法図用の正面、裏、側面などの5面撮影を担当したカメラマンは、奥脇さんの弟子の村上登志彦さん。「師匠の横で撮れへんか」とのシマダさんの必殺口説き文句に乗せられたのだが、それが10日も缶詰になるとは思いもよらず……。一緒に作業していた植木さんには「ほとんど拉致状態」に見えた。

     そうやって上がってきた写真に「人格を感じた」とシマダさんは言う。中には「エロチック」と評したカットもあった。電気製品がエロチックなわけないやんと思ったが、そのカットは製品背面のコードの曲線が、確かに妙に悩ましく見えるのだ。

     「全部載せたい」。シマダさんは当初の予定をひっくり返した。三百数十ページの図録を注文されたのに「写真のページだけで二百数十ページになってました」とシマダさんは笑う。マリさんが引っ張り出してきたさっきのスケジュール表は、10月23日現在で「760P→808P」と書き込まれているから、どんどん増え続けていった様がうかがえる。

     シマダさんは笑うが、「300ページがどうして800ページになるのか、わかんない」と植木さんは頭を抱えた。<文・松井宏員/写真・岩本浩伸/デザイン・シマダタモツ>

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