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「官民ファンド」の失敗 店じまいを考えるべきだ

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 「官民ファンド」が行き詰まっている。安倍政権の経済政策、アベノミクスの看板プロジェクトとして相次ぎ設立されたものだ。

 14のファンド中、12が今の安倍政権下で業務を開始している。うち八つが2017年度末時点で累積損失を抱えていた。

 政府は収益改善のため監視を強化するというが、問題は構想自体にある。小手先の対策で解決するとは考えにくい。国民負担を最小限に抑えるため、ファンドの早期清算に向けた議論を始めるべきだ。

 国と民間が資金を出し合い、民間の事業に出資して成長を助けるというのが官民ファンドの狙いである。

 民間投資の「呼び水」効果を期待したが、国の資金が大半を占め、事実上の「官製ファンド」となっているケースも少なくない。

 確かに投資ファンドの黒字化には時間を要する。しかし、官民ファンドの場合、投資先の収益改善が進まないだけでなく、投資そのものが思うように実行できていない問題がある。人件費や事務所の家賃ばかりがかさんでいるのが実情だ。

 農林水産品の付加価値を高める目的で設立された「農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)」は、累積損失が今年3月末時点で約92億円に及ぶ見込みだという。

 政府に求められ、累積損失解消に向けた改善計画を4月に公表した。過去6年分に匹敵する投資を今年度1年で実施し、事業期限の32年度末に82億円の累積黒字を実現する、といった非現実的内容だ。

 A-FIVEに限らず、官民ファンドが抱える問題は、根が深い。

 民間が単独で手を出そうとしないリスクの高い投資で成功するには、民間以上のノウハウや力量が求められるが、そうした力を持ち合わせていない。かといって、安全度の高い案件ばかり選べば、そもそも官が参加する必要はなくなる。

 10~20年の事業期間中、経営者や運用責任者が交代することは多く、失敗の責任が明確になりにくい。

 将来、別の政権下でファンドが終了時期を迎える時、「最終的に損失はここまで膨らんだ」と告げられてはたまらない。政府が批判回避のための問題先送りに逃げないよう、目を光らせる必要がある。

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