SUNDAY LIBRARY

岡崎 武志・評『妻の死』『手塚治虫とトキワ荘』ほか

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今週の新刊

◆『妻の死』加賀乙彦・著(幻戯書房/税別3200円)

 加賀乙彦といえば、『フランドルの冬』『宣告』などで知られる重厚な長編作家だが、『妻の死』は自選による短編小説集。単行本未収録を含め12編に、「長編小説執筆の頃」なる随筆を付す。

 表題作は、2008年冬、妻が風呂で突然死したことから始まる。二人は1960年に結婚。その長き春秋と作家人生が回想されるが、著者の筆は感傷に濡(ぬ)れず、事実だけを並べる。カルテのように乾いた文体が、かえって喪失の大きさと寂寥(せきりょう)を募らせるのだ。

 「くさびら譚」は芥川賞候補作。若き日に「私」の恩師だった朝比奈は神経病理学の権威で、同時にキノコ分類学者でもあり、「私」はキノコ狩りに同行する。しかし、朝比奈は大学を長期休職、離婚し精神病に罹患(りかん)する。キノコの標本に埋もれた朝比奈を、一種幻想的に描く佳品。

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