オピニオン

多角的な視点から 地球環境問題に取り組む「雲のスペシャリスト」 情報理工学部情報科学科 情報技術センター 教授
中島 孝

2019年7月1日掲出

 近年、世界規模で異常気象が頻発している。昨夏の連日の猛暑や各地に甚大な被害をもたらした豪雨は、私たちの記憶に新しい。このような異常気象と地球温暖化の関係について現在盛んに研究が進められている。温暖化の進行を食い止めることは、全人類の喫緊の課題と言える。今回は、我々にとって身近な「雲」のメカニズムを、温暖化をはじめとする環境問題の解決に役立てようとしている中島孝教授に、今後の展望について、最新の研究成果を交え聞いた。【聞き手・中根正義】

 

異常高温と温暖化の関係を明らかに

──先生には6年前にもお話を伺っていますが、気候変動の研究では大きな動きがあったようですね。

 タイムリーな話題として、5月に気象研究所と東大大気海洋研究所、国立環境研究所の3カ所の研究者の方々が連名で発表された論文があります。昨年夏、日本列島が40℃を超える記録的な猛暑に見舞われましたが、論文では、産業革命がもたらした工業化以降の人為的な温室効果ガスの排出に伴う地球温暖化を考慮しなければ、昨年の様な猛暑は起こりえなかったことを明らかにしたのです。これまでは、異常気象と温暖化との因果関係を明確に言い切ることは難しかったのですが、スーパーコンピューターの飛躍的な発達により、さまざまなバリエーションの計算を繰り返しできるようになったことで、数百ケースにのぼるモデル計算ができるようになりました。関連性を定量化して議論できるようになったことで、気候変動に関する研究が進んだのです。

 もう一つ、6年前と違うのは気象庁の「ひまわり」衛星が新しい型に変わったことです。これは非常に素晴らしい衛星で、10分に1回、くっきりと細かく正確な画像を撮ることができるようになりました。気象庁は世界に先駆けて2014年に打ち上げ、2015年から稼働を始め、世界中の雲研究者に大変喜ばれています。雲の動きや成長過程を時系列で見ることができるようになり、「ひまわり」を使った研究が今、活発に行われています。

 

──確かに、 天気予報の精度がここ数年で飛躍的に向上したように感じます。

 これは、ひまわりのおかげだと思います。最近では、衛星から推定された値をモデルのなかに入れ、適宜修正して同化する「データ同化」という方法が使われるようになりました。予測する時間間隔が短くなり、予測精度が大きく上がりました。このように精度は向上しましたが、いま問題となっているのは、積雲が発達するときに、どこまで発達し、どれだけの雨量をもたらすかが、まだなかなか正確に予測できていないことです。昨年の豪雨被害のように、つぎつぎと積雲がやってきて同じ場所に豪雨を降らせ続けるといった事象は予測しきれていません。ひまわりの情報に加えて、最近は地上の雨レーダーも非常に良いものが出てきたので、そこから数分前の状態を取り込んで、積雲が急発達していることを検知するということも行われるようになりましたが、このような集中豪雨の予測の精度アップは、これからの課題です。

 このほか、私が関わっている日本とヨーロッパの共同製作による「アースケア」というレーダーが搭載された衛星の打ち上げが2021年度に予定されています。その衛星が打ち上げられれば画期的な観測結果が得られると考えています。

 

──新しい衛星ができると、どれほどの劇的変化があるのでしょうか。

 私の研究の主眼は人工衛星を用いて雲の広域観測を行い、その成長過程を明らかにすることです。雲成長のメカニズムが明らかになれば、モデルによるエラーの少ない予測を通じて、豪雨などによる自然災害の軽減につながると期待しています。雲は全地球規模の現象なので、その観測には人工衛星が最適です。

 実は、地球温暖化の予測精度にブレがあるのは、雲の役割がよくわかっていないからです。雲の理解が十分であれば、短期的には集中豪雨などの予測精度が上がるでしょう。長期的にはどのような雲がどれだけ地球上にあり、どのように変化していくかを全地球的に見ていくことが非常に重要で、それをしっかりと観測できる衛星が必要になっています。その衛星の一つが2021年度に打ち上げ予定の「アースケア」なのです。これは雲の鉛直断面を観測するもので、そうすると、雲のなかのどこで雲粒が雨粒に変化しているか、雲粒が上昇傾向にあるか、下降傾向にあるか、発達や減衰の状況が分かるようになります。つまり、雲の発達を物理の数式で書くようなことがより正確にでき、気候モデルもより正確になって温暖化の予測精度もさらに高まり、人類が取るべき道筋もより明確になるはずです。

 

地上に到達する日射量を計算する手法を開発

──先生は、再生可能エネルギー(日射量)の活用についても研究されていますね。

 この研究は東海大学が筆頭になり、そこにJAXA(宇宙航空開発研究機構)、東大、千葉大、NICT(情報通信研究機構)などの研究者が加わってグループで進めています。人工衛星を使って雲の特性が明らかになれば、その雲特性に応じた地上到達日射量が計算できます。

 私は以前、人工衛星のデータから雲の特性を推定するアルゴリズムを開発しましたが、その雲特性を入力データとして、地上に到達する日射量を高速計算するアルゴリズムをJAXAグループの研究者が開発したことで、研究が一気に進みました。現在では、ひまわり衛星による観測後、約10分程度で、日本付近の日射量は1キロメッシュで分かるようになりました。アジア・オセアニアエリアなら4キロメッシュで計算できるようになりました。

 地上に到達する日射量は、まさに再生可能なエネルギーなので、そのデータを使い、長期的にデータを見ていけば日本列島のどこに太陽電池を設置すれば一番効率的に発電できるかが分かります。太陽光発電や太陽熱発電は将来の基幹エネルギーになる可能性を秘めています。その意味でも、太陽光や風力といった再生可能エネルギーを今後増やしていく必要がありますし、そのためには新たな技術や知見が必要です。それに貢献するのがこの研究だと思っています。

 今後は、雲がどう発達するかという物理の研究に立ち戻っていきたいと思っています。もちろん、太陽光のデータは今後も取り続けるので、それを生かして、より予測精度を高めるための研究に取り組んでいきたいです。

 

──最後に、環境問題を学びたいと考えている人々へ、メッセージをお願いします。

 温暖化は、地球に住むすべての人々や動植物に関わる重要な問題です。温暖化が既に進行していることは明らかにされつつあり、対策が急がれます。ただ、そのためには社会構造や社会のルールを変えなければならず、相応のインパクトやコストが必要です。そのための正しい科学知識を提供する責務が我々科学者にはあります。

 もちろん、科学には絶対正しいということはほとんどないので、なるべくエラーの少ない情報を提供して、間違った選択肢を提示しないようにする必要はあります。

 私が取り組んでいるのは、子や孫などの後の世代には確実に影響を及ぼす話です。そこに環境科学や地球科学といった分野が関わってくる非常にホットな研究分野です。だからこそ、より多くの学生に関心を持ってもらい、一緒に東海大学で研究できたらと願っています。

 東海大学における人工衛星による地球観測は非常に長い歴史を持っており、1974年には大学に情報技術センターが設立され、人工衛星のデータを取り扱い始めています。1986年には熊本に宇宙情報センターが設置され、これらのセンターで人工衛星のデータの受信から処理までを一貫して行っています。湘南キャンパスに2017年に竣工したテクノキューブ(19号館)でも、地球観測衛星のデータを受信しています。このように、東海大学には地球観測の研究に取り組むには最適の環境設備が整っています。地球環境問題に少しでも関心のある人は、ぜひ入学を考えてほしいと思いますし、在学生の皆さんには、日本有数の総合大学である東海大学で、関心のある研究に打ち込んでもらい、さらに深めてもらえたらと思います。

情報理工学部情報科学科 情報技術センター 教授 中島 孝 (なかじま たかし)

1968年東京都生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒業。東京大学大学院理学系研究科(地球惑星物理学専攻)修了後、宇宙開発事業団(現・JAXA)に勤務。2002年に東京大学で博士号取得。05年に東海大学に着任、13年より現職。 ■主な所属学会 日本地球惑星科学連合(JpGU)、日本気象学会(MSJ)、日本リモートセンシング学会(RSSJ)、米国気象学会(American Meteorological Society)。 ■主な受賞歴 東海大学 松前重義学術奨励賞、日本リモートセンシング学会学会賞(論文賞)、日本気象学会(堀内賞)。