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論点

国民の資産“休眠預金”はどこへ向かうのか 3氏に聞く

 金融機関にある年700億円もの休眠預金がいよいよ今年度から活用される。年度内に非営利組織(NPO)など民間公益活動に交付され、期待の声が高まる。一方で、公平公正な使い道や、交付先を決める際の評価方法が問われることにもなる。国民の資産でもある休眠預金はどこへ向かうのか。【聞き手・馬渕晶子】

    日本民間公益活動連携機構理事長の二宮雅也さん

    日本民間公益活動連携機構理事長の二宮雅也さん=東京都千代田区内で2019年4月17日午前11時35分、馬渕晶子撮影

     金融機関で10年以上出し入れのない預金を民間公益活動の促進のために使う。それが法に基づく休眠預金の活用制度である。優先分野には、子どもや若者への支援、日常生活が難しい人への支援、地域への支援――などがある。その課題をよく知っているのは現場で活動しているNPOの方々だ。

     ただ現実として、そこには資金不足や人材不足があり、休眠預金の活用はまたとない機会になるだろう。NPOの基盤づくり、人材育成に国民の財産である休眠預金が使われれば、みんなが理解しながら支え合う社会にもつながる。

     われわれはビジョンとして「誰ひとり取り残さない持続可能な社会づくりへの触媒に」を掲げている。これは2015年の国連総会で採択された「貧困をなくそう」「すべての人に健康と福祉を」「質の高い教育をみんなに」など17の目標からなる「持続可能な開発目標」(SDGs)と精神を同じくするものだ。資本主義とグローバリゼーションが過度に進み、人間の尊厳がなおざりにされ、貧困や格差というひずみも生じている。SDGsはその反省から生まれた強いメッセージなのだ。

     現在は7月末まで資金分配団体の公募をしており、年度内には資金の分配先が決まる。国民の資産である休眠預金を活用する団体は、社会課題の解決につながる成果を目に見える形で示す必要がある。分配先の選定では、活動でどんな社会的な変化が生まれるかを重視する。具体的には解決すべき課題の特定、目標の設定、事業計画が妥当かどうかという達成の道筋が問われる。一方で、人材や資金が豊富な組織もあれば、草の根団体もある。規模や分野は一律ではないので、多様な選定・評価方法も考慮していきたい。

     初年度は市民活動への支援とともに、制度の基盤づくりに重点を置く。その結果、「草の根活動」に10億円をめどに配分する。また「プログラムオフィサー」と呼ばれる活動をサポートする専門職を育てる必要があり、そうした「基盤強化」に9億円を充てる。「新規企画」は5億円、「ソーシャルビジネス形成」と防災・減災に取り組む「災害支援」はそれぞれ3億円を配分する。いずれも最長3年間の活動を対象とし、人材育成に相当コミットする形で、初年度は具体的な活用事例を示したい。

     また将来は、休眠預金の活用によって、NPOや企業、自治体、アカデミアなどの「新たな連携」が生まれ、それがイノベーション(技術革新)を生むだろう。NPOなどの民間公益活動と企業が両輪となってさまざまな大きな社会課題を解決していく。休眠預金の活用はそんな「連携」のきっかけにもなると考えている。

     休眠預金の活用は前例のない壮大な「社会実験」だ。制度運営上の課題は、あいまいにせず改善していく。その過程も公開し、国民に関心や理解を深めてもらえるようにしたい。透明性を確保するために、重要な会議の議事録も原則公開し、組織内に監査室も設けた。「日本民間公益活動連携機構」(JANPIA)が公正中立で利益相反のない組織だと信頼してもらえるように努めていく。

    多摩大学社会的投資研究所副所長の堀内勉さん

    多摩大学社会的投資研究所副所長の堀内勉さん=東京都港区内で2019年3月5日午後3時35分、馬渕晶子撮影

     休眠預金は、100兆円規模の国の一般予算に繰り入れてしまえば0.1%に満たない。だが、休眠預金等活用法によって別会計が実現した。公平・平等な配分が原則の税金の活用では、小さいお金が国民みんなに渡って、その効果は限られる。一方、休眠預金の活用は税金のように広く薄くではなく、効果のある活動にメリハリをもって重点配分していかなければならない。中立性とともに、柔軟性や革新性も求められる。700億円もの預金を砂漠に水をまくようにばらまいて、吸収させたら終わりであってはならない。

     また、NPOなどの非営利法人が寄付・助成・融資によって資金調達する規模は株式会社などの営利法人に比べてとても小さい。どうやってその規模を大きくし、公益活動を今後も持続させていくかが休眠預金活用の目的となる。

     何より、休眠預金を有効活用すれば、平等・貧困・安全といった分野で社会的・環境的な変化をもたらす。東北の震災復興や地域のまちおこしなどの契機にもなるだろう。そうした社会的インパクトを軸に評価したうえで、資金配分先を選ばなければならない。

     一方、数値だけで評価することへの批判もある。成果をどう測るかは引き続き検討課題で、さまざまなステークホルダー(利害関係者)と議論する必要がある。ただ、資金を受け取れば終わりではなく、成果を継続的に検証していくことに異論はないはずだ。大学入試でも合格したら終わりではなく、学問がどのように将来役立っているのかが評価されるのだ。

     では、休眠預金の配分先はどうすべきか。もちろん、戦争・災害対策など、公益活動には寄付や助成なしでは成り立たない分野がある。ただ、それを永遠にもらい続けることは現実的に厳しい。このため、休眠預金の活用先は、公益活動といっても、成果や持続可能性を意識すると、ビジネスに近づく。つまり、NPOも収益を上げられるところは上げ、成果を示す必要があり、事業化できるのだったら事業化してもいいと思う。

     例えば、中高生を対象としたプログラミング教育を運営する企業がある。そこは「高い収益性が見込めても中高生以外には事業はしない」と明言したうえで出資を受ける。そこには「中高生の可能性を最大限伸ばす」という理念があるのだ。そして、新しいアプリ開発、進路、起業など、受講生の人生に与えたプラスの影響も追跡調査していく。そこでは、営利企業の利益に代わり、独自指標による社会的成果を示すことになる。

     公的分野は役所任せという風潮がある。お金は世の中の血液だが、銀行がその役割を果たせなくなった。そうした中、休眠預金の活用が呼び水となり、非営利セクターだけでなく、社会的課題の解決に取り組む企業も次第に増えていくだろう。投資家もその方向に資金をシフトしていけば、より社会に与えるインパクトは大きい。

     早急に求められるのは、休眠預金が循環するような評価手法の確立や人材育成などの環境整備である。その結果、預金の活用対象となる投融資案件がどれだけ生まれてくるのか、注目していきたい。

    NPO法人福岡すまいの会理事・職員の服部広隆さん

    NPO法人福岡すまいの会理事・職員の服部広隆さん=服部さん提供

     休眠預金の活用理念として指定活用団体がSDGsのスローガン「誰ひとり取り残さない」を掲げたことは評価したい。ただ、非常に難しいかじ取りになるだろう。

     今年度から始まる活用先の選定基準が、短期的・数値的な分かりやすさに傾くほど、本来支援すべき対象者が「置き去り」にされる危険性をはらむ。そもそも社会活動が測定できるという考え方自体が疑問だ。もちろん、団体や企業がその活動成果を分かりやすく説明することに異論はない。だが、休眠預金から資金を得るためだけに分かりやすい成果を求め、活動そのものを画一化・効率化してしまったら本末転倒である。

     「NPO法人福岡すまいの会」は路上生活者の居住支援をしてきた。現在の支援対象は高齢者や障害者、DV被害者――と広がっている。自治体から事業を受託して公の一部も担う。どんな人の相談も聞き、個々の課題に向き合うのが仕事だ。例えば、転職を繰り返し困窮状態の人もいる。その人に仕事が続かない障害があれば、その事実と向き合うようなサポートもしている。その人が収入を得るためだけなら、すぐにでも就職先を探した方がいいが、それでは支援の幅は狭まってしまう。精神疾患で自傷を繰り返し、就労が難しい人はどうなるだろう。NPOの支援対象から排除されてしまうことも起こりうる。数字だけを見ていたら、そうした当事者の小さな声を聞くことができない。

     それでも、世の中は民間公益活動にも「分かりやすさ」を求めてしまう。その危険性を理解したうえで、活用先のNPOの選定・評価をすべきであり、それを社会に問いかけることが必要だと思う。

     本来、さまざまな課題を解決できるのは、その課題の当事者である。この視点を欠いたまま、休眠預金が、分かりやすさや成果主義に重点を置いて配分されたら置き去り社会を加速させ、「誰ひとり取り残さない」という休眠預金の活用理念にも反することになる。

     NPOの有志で昨年8月に結成した「現場視点で休眠預金を考える会」(3月末で解散)は、特に休眠預金活用の基本方針の決定プロセスに国民的議論が欠落していたことを指摘した。そもそも、休眠預金は預金者の意思と関係なく使われるため税金に近い公金と言える。一方で、休眠預金の活用が「(社会問題を解決する)ソーシャルビジネスを促進する」という期待の声もある。ホームレスの社会復帰を支援する「ビッグイシュー日本」に勤務していたのでソーシャルビジネスの可能性は高く評価している。ただ、福祉政策とは違い、採算をとらねばならないビジネスで「誰ひとり取り残さない」ことは難しい。公金からビジネスに出資や貸し付けをする仕組みは慎重に検討すべきだ。

     休眠預金から支援を受けるNPO側も、市民の「参加」に価値を置く活動やNPO法の趣旨にもう一度立ち返る必要がある。指定活用団体のJANPIAには市民社会の当事者の一員として「現場との対話」を続けてもらいたい。そして、休眠預金の活用が民間公益活動への関心を高め、市民参加を促す制度になってほしい。

    休眠預金

     家庭などで通帳が眠っている預貯金のこと。東日本大震災の復興に活用できないか検討が始まり、活用法は2016年末に議員立法で成立した。活用資金は、指定活用団体である一般財団法人「日本民間公益活動連携機構」(JANPIA)と、6月から公募が始まった資金分配団体を通じて、NPOなど個別の民間実行団体に助成・貸し付け・出資される。初年度は最多で計約30の資金分配団体が選ばれ、助成総額は約30億円。

    ふたみや・まさや

     1952年生まれ。中央大法学部卒。損保ジャパン日本興亜取締役会長。経団連企業行動・SDGs委員長。JANPIA設立当初から、指定活用団体となった現在も活動を指揮する。

    ほりうち・つとむ

     1960年生まれ。東京大法学部卒、ハーバード大法律大学院修了。日本興業銀行、ゴールドマンサックス、森ビル取締役専務執行役員最高財務責任者(CFO)などを歴任。社会的投資推進財団評議員。

    はっとり・ひろたか

     1982年生まれ。福岡県出身。九州大法学部卒。ホームレス支援のビッグイシュー日本勤務などを経て現職。「現場視点で休眠預金を考える会」(3月末解散)でも提言活動をした。

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