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19年参院選 アベノミクス 積もり続ける「負」の遺産

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 「輪転機をぐるぐる回して、日本銀行に無制限にお札を刷ってもらう」。野党第1党党首だった安倍晋三氏がこう発言したのは、2012年11月の衆院解散直後だった。

 まだ安倍政権は誕生していなかったが、市場は変化を先取りし、株価が上昇に転じた。こうしてアベノミクスが事実上、始動した。

 何のため日銀に巨額の資金を出させようとしたのか。12年末の総選挙で自民党は公約にこう明記している。「明確な物価(上昇)目標2%を設定、その達成に向け、政府・日銀の連携強化の仕組みを作り、大胆な金融緩和を行う」

 アベノミクス「第一の矢」である。日銀法改正という脅しをちらつかせてまで、安倍政権は2%の物価上昇目標を短期間のうちに日銀に達成させようとした。

 それから6年半がたつが、2%はまだ遠い。日銀の楽観的といえる予測でさえも21年度で1・6%だ。

消えた「2%」の公約

 政権主導で始めた以上、政策の成果や先行きを誠実に語る責務が安倍首相にはあるはずだ。ところが、自民党の参院選公約には「デフレ脱却」の大きな文字も、物価上昇率への言及もない。

 軌道修正の必要性について首相は、「専門家の世界だから、政府が何か恣意(しい)的なことを言うべきではない」(3日、日本記者クラブ主催の党首討論会)と距離を置いた。2%の物価上昇率は達成できずにいるが、「本当の目標」は雇用の拡大だ、と今になって弁明する。

 成果として度々挙げるのが有効求人倍率の改善だ。参院選公約に登場する「アベノミクス6年の実績」でも、「約45年ぶりの高水準」とアピールしている。

 それでは雇用面で本当にそれほど「実績」が上がったのだろうか。

 実は有効求人倍率の上昇(改善)は民主党政権時代の2010年ごろに始まっていた。リーマン・ショックからの景気回復と、現役世代人口の急速な減少が同時進行していた。

 有効求人倍率は、仕事を求めている人の数が分母、働き手を求めている仕事の数が分子だ。人口減により分母の求職者が減れば、有効求人倍率は上昇する。

 加えて、働き手を待っているポストの数、つまり分子も拡大中だ。代表的な分野が「医療と福祉」である。要は、高齢人口の急増により社会保障関連の求人が増え、現役世代の減少により、なり手が足りないという現象が浮き彫りになったのだ。

 誇るべき「実績」というより、深刻化する課題といえよう。

 外国人旅行者数が想定以上の伸びをみせたのは、安倍政権下で顕著になった改善事項だ。消費を支え、地方の観光地にも活気を与えている。ただしそれも、一段の拡大を求めようとすれば、人手不足が足かせとなる心配がある。

金利上昇時に混乱か

 安倍政権下で企業収益も確かに回復した。海外経済の好調に支えられ、国外での稼ぎが伸びた面が大きい。一方、国内で働く人の賃金は人手不足の割には伸び悩んでおり、回復の実感の乏しさにつながっている。

 どの政権であれ、掲げた目標を達成できないということはある。しかし、アベノミクスの物価目標は、決定的な違いがある。

 2%の物価上昇率はもともと高すぎて、執着すべき目標ではない。問題は、「2年程度」と短期の実現を強引に追求し、将来の不安定要因を日本経済に抱え込ませた点だ。

 日銀が国債などを大量に買い入れる異次元緩和の結果、金利はかつてない水準まで低下した。例えば政府が期間10年の国債を発行した場合、利子を払うどころか逆にもうかるという異常事態が続いている。

 心配なのは、金利が将来、何らかの理由で跳ね上がる場合だ。超低金利の前提が崩れ、たちまち借金頼みの国家予算は修正を迫られる。社会保障の安定も脅かされるだろう。市場が大混乱に陥ったり、強いインフレに襲われたりする懸念もある。

 負の遺産はこの先も積もり続けそうだ。景気悪化の懸念が強まれば、再び追加緩和を求める政治圧力が高まるかもしれない。

 いつ、どのような形で姿を現すのかわからない。それだけに、この負の遺産は選挙の争点となりにくい。

 かといって、目先のことばかりにとらわれては、判断を誤る。私たちは、まだ見えない代価に目を凝らす力が試されている。

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