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東南アジア探訪記

「ソーシャルサーカス」で貧村の子供たちに自信を

輪投げの練習をするカスマさん(右)とダビド・ヤシンさん(中央)=ジャカルタ北部チリンチンで2019年7月3日、武内彩撮影

 子供たちがリズムよくいくつもの輪を投げて交換し、隣ではディアボロ(中国こま)の大技が決まる――。ジャカルタ北部の漁村チリンチンにある小さな体育館で繰り広げられる光景だ。「ソーシャルサーカス」と呼ばれる取り組みで、貧困や将来への閉塞(へいそく)感、自信の欠如などの問題解決の手段としてサーカスを取り入れている。運営するのは2008年創設の非営利団体「レッドノーズ(赤い鼻)」で、250人ほどの子供が参加する。

体育館でサーカスの練習をする子供たち=ジャカルタ北部チリンチンで2019年7月3日、武内彩撮影

 ソーシャルサーカスは、サーカスの練習や技の習得を通じて協調性や自尊心、コミュニケーション力などをつけるのが目的だ。日本でも障害のある子供たちを対象にしたセミナーが開かれ、世界的なサーカス劇団「シルク・ドゥ・ソレイユ」も公演する各地で教室を開いている。

 レッドノーズは週3回、無料で輪投げやヨーヨー、アクロバット、ダンスなどを教え、英語などのクラスも提供する。定期発表会で家族や地域住民を前に成果を発表するほか、支援企業のイベントで演技したり、海外公演に招かれたりすることもある。最初は消極的だった子供も大勢の観客から拍手されることで自信をつけ、表情がみるみる変わるという。

車座になって貝の殻を手早くむいていく女性ら=ジャカルタ北部チリンチンで2019年7月3日、武内彩撮影

 住居が折り重なるように建つ間を迷路のように小道がはうチリンチンの生活は厳しい。住民のほとんどは近海で小魚や貝をとる漁師や港湾労働者として生計を立て、月収はジャカルタ特別州の月額最低賃金約370万ルピア(約3万円)を下回る家庭も多い。

 体育館から海岸に向かう道ばたでは、女性たちが車座になり貝の殻をむいていた。小さなナイフであっという間にむいていくが、相場は1キロ4000ルピア(約32円)で、1日作業しても4万ルピア(約320円)ほどにしかならない。人手があるにこしたことはない作業のため、子供たちもかりだされる。そして中学を卒業すれば、立派な「稼ぎ手」だ。

 レッドノーズのアディサ・ウランダリ代表は「中学卒業後、男の子は漁師、女の子は結婚して子供を産むのが当たり前という考え方が根強い」と説明する。「特に女児の親は『子供を産むのに教育は必要ない』と言う。親の考えを変えるのは難しく根気がいる」と話す。制服や教科書代として奨学金を支給することで理解を求めてきたが、いまだ活動に懐疑的な住民もいる。

 米国で演技を披露したことがあるカスマさん(17)は、小学4年生の時に参加するまで放課後は殻むきを手伝う以外は時間を持て余していたという 。無気力なカスマさんを心配した母親が参加するよう勧めた。サーカスを通じて人前で話す度胸がつき、チャレンジ精神も養われた。中学卒業後は奨学金を得て職業学校で会計を学んでいる。カスマさんは「次は大学で勉強を続けたい」と力強く語る。

住居や貝をゆでるための作業小屋などが建ち並ぶチリンチンの海岸沿い=ジャカルタ北部で2019年7月3日、武内彩撮影

 活動を10年以上続けることで、年少の子供たちにも影響が出ている。ダビド・ヤシンさん(12)は、先に参加していた兄に憧れて通い始めた。兄はサーカスの技術が認められ、今はレッドノーズの指導者として働く。身近に目標がいることで、練習や勉強を続ける意欲につながっている。

 サーカスは18歳までの活動のため、レッドノーズは16年に17歳以上を対象に職業訓練も始めた。履歴書の書き方や就職面接の受け方などの指導を受けた後、提携するホテルやレストランでインターンとして働く。期間中は給料が支払われ、終了後にそのまま就職する人も出ている。ウランダリさんは「自分に自信を持つことは、子供たちの基盤になる。そのためにも親や地域を巻き込んでサーカスを続けていきたい」と話す。【武内彩】

武内彩

ジャカルタ支局記者。1980年和歌山県生まれ。2005年に毎日新聞に入社、神戸支局を振り出しに大阪社会部の在籍が長かった。東南アジア好きは学生時代のフィリピン留学以来。担当地域はインドネシア、フィリピン、マレーシア、シンガポール、オーストラリアなど。

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