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麗しの島から

福岡のサザエ、熊本の地鶏…日本ブランド食材が人気! 美食の街・香港の今

高層ビル群が建ち並ぶ香港の夜景。日本から輸出される農林水産品や加工食品の総額で、国・地域別トップに立つ=香港のビクトリア・ピークから2019年6月23日午後9時48分、福岡静哉撮影

 日本から輸出される農林水産品や加工食品の総額で、国・地域別トップに立つのが香港だ。2018年は日本からの輸出総額の23%を占めた。世界有数の美食の街で日本ブランドの人気が高く、輸入規制が少ないことなどが背景にある。そんな香港で近年、付加価値の高い日本の農産物を売り込む動きが活発化している。香港を起点に海外への農産品販売を加速させようと、産地間の競争も熱を帯び始めた。

フランス料理店「Whisk」で出された前菜。フランス産のフォアグラに添えられた緑色のソースには福岡でとれたサザエの身が混ぜられ、味と食感にアクセントを添える=香港・尖沙咀で2019年6月4日午後1時25分、福岡静哉撮影

フレンチの超一流シェフが日本産を愛用

 初夏の香港。中心部の繁華街にある四つ星ホテル「ザ・ミラ香港」のフレンチレストラン「Whisk」は昼食の時間帯、香港市民や欧米人でにぎわっていた。待ち合わせた相手は、香港で数多くの一流シェフに福岡県産の農産物を供給する事業を展開する藤間賢二さん(53)。香港で知る人ぞ知る、福岡産食材の「伝道師」だ。

 前菜はフランス産のフォアグラ。添えられた緑色のソースは、クレソンをすりつぶしたものだ。「ソースには(福岡市の)志賀島産サザエが混ぜられています。肝の砂が残らないよう特別な処理をしています」。藤間さんが解説してくれる。口にふくむとサザエのコリコリとした食感がアクセントを添えた。続いてプリプリとした大ぶりのカキが登場した。日本酒を垂らして酒蒸しにする。福岡市の唐泊漁港から仕入れた岩ガキだ。濃厚な味わいが口の中に広がる。

 空輸のため魚介類や野菜は収穫した日か、遅くとも翌日には香港で客の口に運ばれる。東京で食べるのと同じか、それ以上の鮮度だ。Whiskの総料理長、李韋傑さん(38)は「以前はフランス産の野菜を使っていました。でも九州産の方がはるかに新鮮でおいしく、創作意欲がかき立てられます」と目を輝かせる。

 藤間さんは古里・福岡の農家や漁業者と契約し、香港の100を超える一流レストランに年間約100トンの食材をおろす。「食材の本当の価値が分かる一流のシェフは高価でも欲しがる」と言う。藤間さんの仲立ちで、シェフが自ら福岡の産地を訪れることもある。

 6月11日には、香港で3本の指に入る最高級ホテルの総料理長が青果市場や漁港、農園などを視察した。このホテルでも既に福岡産の食材を使っている。視察を受け入れた福岡県糸島市の久保田真透(まさゆき)さん(43)は「自分がつくった農産物が海外で評価されてうれしい。他の国の農家も高品質化を目指して改良を重ねると思うので、負けないよう頑張りたい」と話す。

藤間賢二さん。香港で知る人ぞ知る、福岡産食材の「伝道師」だ=香港・紅磡で2019年6月27日午前11時29分、福岡静哉撮影

 藤間さんは月に1度は福岡に戻り、農家や漁業者を回って仕入れ先を開拓する。「福岡の農家や漁業者は、トップクラスのシェフたちが驚くほど素晴らしい食材を作っている。それが正当に評価され収益が出てこそ後継者が育ち、持続可能な農漁業になる。そのお手伝いをしたい」と語る。

香港は「食のショーケース」

 アジア有数の金融センターである香港は、高級レストランがしのぎを削る食の激戦地だ。

 日本貿易振興機構(JETRO)香港事務所によると、香港には3000万米ドル(約32億円)以上の資産を持つ「超富裕層」が約1万人いる。ニューヨークなどを上回り世界の都市でトップだ。JETRO香港事務所の前田久紀・市場開拓部長は「香港は平均所得が日本よりも高く、高価でもいいものを食べたいという消費者が多い。日本の農産物、水産物や加工食品は伝統的に香港市民に人気があり、日本ブランドへの信頼性も高い。このため高品質な日本の農産物や加工食品は根強いファンが多く、高価でも売れる傾向にある」と言う。

 香港の高級スーパーには日本産の果物がたくさん並ぶ。日本食の人気は高く、香港の飲食店1万7750店舗のうち日本食店は1360店と7.7%を占める。昨年に日本を観光などで訪れた香港市民は約220万人に上り、国・地域別で中国、韓国、台湾に次ぐ4位だ。人口約740万人のおよそ3人に1人が日本を訪れた計算になり、人口比では世界一となる。

 日本からの農林水産品や加工食品の輸出先として、香港は昨年まで14年連続で国・地域別の1位。昨年は日本からの総輸出額9068億円ののうち、香港向けが2115億円で23.3%を占めた。香港向けの輸出は年々増加しており、国が目指す「19年に輸出総額1兆円」の目標達成に向けたカギとなる地域だ。

 効果は香港だけにとどまらない。香港を昨年訪れた中国人観光客は、人口の約6.9倍に当たる約5100万人。欧米人の居住者や観光客も多く、アジアの食の中心都市と言える。シンガポールやバンコクより日本に近いだけでなく、通関もスムーズなので空輸で日本国内並みに新鮮な食材を提供できる。こうした地の利が、香港の大きなポイントだ。JETRO香港の前田部長は「中国人観光客が香港に来る目的の一つは『食』。食品輸入の規制が厳しい中国本土では入手できない日本産の農産物や食品が多いけれど、香港ではお金を出せば日本国内と変わらない品質の料理が食べられる。香港はアジアにおける日本産食材の『ショーケース』の役割を果たしている」と言う。

香港中心部の百貨店では今年5月、規制緩和で茨城県から輸出されたメロンが飛ぶように売れた=JETRO香港提供

香港への売り込みで日本の産地間競争が激化

 香港への輸出を巡り、日本の産地間で競争が激化している。農業が盛んな県では、地元の銀行や県庁などが中心となって香港への農産品売り込みを強化。栃木、兵庫、福岡、佐賀、熊本、宮崎、鹿児島、沖縄の8県は、生活コストが世界一高いとも言われる香港に独自の事務所を置く力の入れようだ。

熊本県産品をPRする和食店「櫓杏(ろあん)」の店内にある野菜販売コーナー。新鮮な野菜がその場で購入できる=香港・尖沙咀で2019年6月14日18時14分、福岡静哉撮影

 2017年4月には熊本県産品をPRする和食店「櫓杏(ろあん)」が繁華街の商業ビルにオープンした。食材は熊本産だけを使う。地銀の肥後銀行が出資した。店内は102席あり、内装は熊本城内をイメージしている。熊本地鶏「天草大王」の手羽先▽菊池産「水田ゴボウ」や上天草市のタマネギなどを使い、阿蘇の天然水で浸したサラダ▽南関あげを使った名物「だご汁」などメニューは多彩だ。昼食でも1万円前後と高価だが、客の入りは順調で黒字経営だという。店内には県産の農産物や陶器などを展示・販売するコーナーも設けた。

 園田聖・総料理長(35)は熊本県上天草市出身。シンガポールの飲食店での経験が買われ、引き抜かれた。「熊本も、高齢化や過疎化が進んでいる。なんとか古里をサポートしたいとの思いから、熊本の農産物、海産物をたくさん仕入れている。それによって少しでも雇用が生まれ、若い人が熊本に戻るという好循環を作りたい」と意気込む。

 佐賀県産の食材に特化した和食店「佐楽(さら)」は6月6日、香港の一等地タイムズスクエアに新装オープンした。地銀の佐賀銀行が出資し、玄界灘でとれた魚介類▽佐賀産の有機野菜▽佐賀牛や「みつせ鶏」の炭火焼きなどのほか、県内すべての蔵元の日本酒も取りそろえた。料理は有田焼の器に盛りつけ、カウンターにも有田焼の大皿や器などが展示されている。冨田耕平・料理長(38)は「おいしい料理を香港人に食べてもらい、佐賀の知名度アップにつなげたい」と意気込んでいる。

 各県産品の知名度アップと消費拡大を図るだけでなく、その土地の魅力を知った外国人が観光で訪れるインバウンド効果も期待できそうだ。

佐賀県産の食材に特化した和食店「佐楽(さら)」。開店前日の6月5日には、香港のブロガーらを招いた試食会も開かれた=香港・タイムズスクエアで2019年6月5日19時26分、福岡静哉撮影

課題は、福島産の輸入規制緩和

 課題は、今も続く福島県産食品の輸入規制だ。香港は東日本大震災直後から福島、茨城、栃木、群馬、千葉の5県産の野菜、果物、乳製品などの輸入を禁止していた。昨年7月に福島産以外については禁輸措置が緩和され、放射性物質検査証明書などを提出すれば香港に輸出できるようになったが、福島産は禁輸が続いている。

 4県からの輸出は少量にとどまるが、香港市民の抵抗感は徐々に薄れつつあるようだ。栃木県はナシやイチゴなどの輸出を始めた。茨城県も国内トップの生産量を誇るメロンを今年5月、百貨店で1個148香港ドル(約2050円)で特売し、1日で120個が完売した。茨城県の松浦和哉・農産物輸出グループ長は「引き続き安全性とおいしさを訴え、香港への輸出の流れを軌道に乗せていきたい」と話している。

 日本政府は福島県産食品の規制緩和についても粘り強く交渉を続けている。今年1月には福島県の内堀雅雄知事が香港を訪れ、輸入規制を担当する政府幹部に直接、要請した。香港政府側は対話を続ける意向を示した。

 中国、台湾、韓国なども福島県や周辺地域の農産品の輸入規制を続けている。香港で福島県産品の規制緩和が実現すれば、他の国・地域での規制緩和に向けても弾みとなるかもしれない。【福岡静哉】

福岡静哉

台北特派員。1978年和歌山県生まれ。2001年入社。久留米支局、鹿児島支局、政治部などを経て2017年4月、台北に赴任した。香港、マカオのニュースもカバーする。

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