SUNDAY LIBRARY

岡崎 武志・評『ある作家の夕刻』『小説という毒を浴びる』ほか

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今週の新刊

◆『ある作家の夕刻』フィッツジェラルド/著(中央公論新社/税別1700円)

 フィッツジェラルドは1940年に若くして亡くなったアメリカの作家。そんな説明が不要なほど、日本で高い人気を誇っているのは、ひとえに村上春樹による新訳とオマージュのおかげであろう。春樹経由フィッツジェラルド。

 『ある作家の夕刻』は、30年代に書かれた短編小説とエッセーを、村上が編訳。各作品の解説、あとがきを付す。巻頭の「異国の旅人」は、著者夫妻を思わせる裕福で見かけのいいアメリカ人カップルが登場。同じくヨーロッパを旅している夫妻と出会う。

 大した筋があるわけではない。「空は低く、そこには眼光鋭い異郷の神の支配が満ちていた」は、ホテルのベランダからの夕景。詩情をたたえた描写は、あくまでジェントルで空虚な美しさに満ちている。まるで、村上の小説みたいだと思えてくる。「すべての人生は崩壊の過程である」とエッセー「壊れる」に書く。しかし、村上はそこに「作家としての強靱な本能」を見るのだ。

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