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日本文化をハザマで考える

第7回 ブードゥー教の儀式に強い興味を持ったジェームス・ボンドと三島由紀夫

神事を行うブードゥー教の司祭=ゲッティ

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 1954年に出版された007ジェームス・ボンドの小説第2作「死ぬのは奴らだ」で、作者のイアン・フレミングはボンドをニューヨークに送っている。ボンドはホテルの一室でくつろぎ、いつもとはかなり違う事をする。ロンドンにいる彼の上司「M」から薦められた本を読む。それはパトリック・リー・ファーマーの「旅行者の木」という本であった。

     実際、フレミングは「死ぬのは奴らだ」の中で、ファーマーのブードゥー教(ハイチなどで盛んな民間信仰)に関する描写を5ページにわたってそのまま引用するという、全くすごい事をしてみせる。この秘密情報を手に入れたボンドは、このブードゥー教の秘儀を使うハーレムの「ミスター・ビッグ」に立ち向かうことができたのだ。

     これがどうして007の小説になったかというのは、驚くべき話なのだ。それは、大西洋の東の端、ギリシャのクレタ島で始まる。第二次世界大戦中、ファーマーは英国特別諜報(ちょうほう)部の一員として、クレタ島でドイツの総司令官を誘拐するということを果敢にもやってのけた。

     ファーマーのチームにはギリシャ人が一人いた。戦後、このギリシャ人はカリブ海地域の写真集を作るように言われ、ファーマーは彼と一緒にカリブ海に行って文章を書くように命ぜられている。ファーマーはカリブ海でいろんな事を観察したが、ハイチではブードゥー教の儀式を見る機会もあった。彼はジャマイカにあるフレミングの別荘、ゴールデンアイにも2回行っている。

    ニューヨークの三島由紀夫

     50年代のニューヨークで、ブードゥー教の儀式に強い興味を持ったのは、ジェームス・ボンドだけではなかった。57年には、三島由紀夫が世界の東の果てからニューヨークに到着した。彼の「近代能楽集」をオフ・ブロードウェーでやりたいと思っていたからだ。ジェームス・ボンドと同じく、三島はニューヨークのホテルの一室に閉じ込められた。資金も次第に底をつき、プロダクションからの反応の遅れにいらいらしていた。

     それで、能の劇の詳細を詰めるのをプロデューサーに任せ(残念ながら結局実現しなかったのだが)、三島はカリブ海へのツアーに出かけた。その旅行のハイライトは、ハイチでブードゥーを探すことだった。あの悪名高い独裁者、フランソワ・デュバリエ(通称パパ・ドク)が権力を握ることになったのは、三島がハイチをたったほんの3週間後である。

     私の頭の中には現代のハイチを舞台にした能が浮かんだ。第一部では三島の幽霊に旅行者が出くわし、第二部ではデュバリエが残したものが、能とブードゥーが融合した様式で紹介される。こんな能なら、私もきっと見に行くだろうと思った。

    @DamianFlanagan

    ダミアン・フラナガン

    ダミアン・フラナガン(Damian Flanagan) 1969年英国生まれ。作家・評論家。ケンブリッジ大在学中の89~90年、東京と京都に留学。93~99年に神戸大で研究活動。日本文学の修士課程、博士課程を経て、2000年に博士号取得。現在、兵庫県西宮市とマンチェスターに住まいを持って著作活動している。著書に「世界文学のスーパースター夏目漱石」。

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