2015年の温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」や、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の採択以降、電力供給源を石炭などの火力から太陽光など再生可能エネルギーにシフトする「脱炭素化」が各国で急速に進んでいる。
電力の安定供給と地球温暖化対策をどう両立させるか。日本にとって待ったなしの課題のはずだが、今回の参院選で与野党から説得力のある議論が聞こえてこない。
東日本大震災後、日本は電力供給の8割を温室効果ガス排出量が多い石炭を含む火力に依存しており、世界の潮流から取り残されている。
安倍晋三政権が公約する「50年に温室効果ガス8割削減」の実現にはエネルギー政策の見直しが必須だが、問題の先送りを続けてきた。
原発再稼働を進めながら、新増設を認めるかどうかは「現時点では想定していない」とあいまいな姿勢で、選挙での争点化を避けている。
安倍政権は昨夏策定したエネルギー基本計画で、30年の電源構成について、石炭26%程度、原発20~22%とする一方、再エネは22~24%にとどめた。温暖化対策の本気度が疑われる内容だ。
東京電力福島第1原発事故処理の収束が見えない中、原発回帰路線が国民に受け入れられるとも思えない。安全対策費の高騰で原発の廃炉が相次ぎ、政府内でも30年の原発比率実現は困難との見方が出ている。
立憲民主党は原発の再稼働を認めない「原発ゼロ」に加え、30年までの石炭火力全廃も掲げている。再エネを活用した地域分散型ネットワークを普及させるシナリオという。
ただ、太陽光や風力は発電量が天候に左右される弱点を克服できておらず、安定供給に不安が残る。再エネの活用拡大に必要な送電網整備などのコストも示していない。
欧州諸国は石炭火力全廃に向けてエネルギー政策を転換している。欧米金融界は石炭火力関連など温暖化対策に逆行する事業から投融資を引き揚げている。
日本は早急にエネルギー政策の転換に取り組まなければ、海外の投資マネー流出などで経済にも打撃が及びかねない状況だ。与野党は表面的な議論に終始せず、脱炭素社会実現への道筋を示すべきだ。