ハンセン病の元患者家族が受けた差別被害をめぐり、国に損害賠償を命じた熊本地裁判決について、政府が控訴しない方針を決めた。
これまで国は元患者に対して謝罪し、補償をしているが、家族への被害を認めていなかった。今回の方針を私たちは評価したい。
その理由はまず、家族への差別が、国の誤った患者の隔離政策に起因していることだ。強制的な人権の制約が患者や家族への偏見や差別を助長したことは国も認めている。
家族への差別内容も患者と同様に苛烈だったという事実だ。教育の機会を奪われ、結婚で差別された人もいる。「人生被害」と呼ばれるほど深刻で長期にわたるものだ。
さらに、地裁判決が、所管の厚生労働省だけでなく、法務省や文部科学省も人権への取り組みを怠ったと認定したことも重い。政府全体の連帯責任を意味しているからだ。
他方で法理上の課題もある。国はらい予防法廃止により民法の3年の消滅時効が成立していると主張したが、判決はこれを退けた。
安倍晋三首相が判決について「一部には受け入れがたい点がある」と語ったのは、時効の扱いをめぐる見解の違いがあるからだろう。
法治国家である以上、すべてが政治判断で乗り越えられるものではない。しかし、国が負うべき責任や被害者が受けた人権侵害の重大さに向き合う必要がある。
社会正義の実現という法の趣旨に照らせば、国は主張の一貫性を犠牲にしてでもこの問題に終止符を打ち、被害者救済を最優先にすべきだ。
救済策に向けてはハンセン病問題基本法を改正し、元患者の家族も対象に明記する必要がある。その際、どのような基準で範囲を定めるのか。高齢化が進む中、被害家族がどのくらいいるかもはっきりしない。
旧優生保護法などほかの国家賠償訴訟に影響するのか。厚労省はハンセン病の場合は「特殊性があり、単純に波及するとは考えていない」というが、明確な見解が求められる。
国は鳥取県の元患者家族と同様の訴訟を抱え、時効問題などをめぐって最高裁で争っている。この訴訟の扱いはどうなるのか。
具体的な救済策の策定にあたっては、解決すべき課題も多い。