吉本興業に所属するお笑い芸人が振り込め詐欺グループの忘年会や暴力団関係者の会合に出席し、報酬を受け取っていた。関係した芸人らは謹慎処分となった。いずれも事務所を通さない仕事だった。
吉本興業は2009年に反社会的勢力との決別を宣言している。暴力団関係者との交際を理由に島田紳助さんが11年に引退した際には、コンプライアンス(法令順守)を徹底する方針を打ち出した。にもかかわらず不祥事が繰り返されてしまった。
芸能の興行には、暴力団などが介在してきた歴史がある。業界の古い体質をたださなければ、反社会的勢力との関係を断つことはできない。
問題の背景には、若手を中心に、芸人の身分や生活が不安定な状況に置かれているという事情がある。
吉本興業には約6000人のタレントが所属している。だが、事務所を通じた仕事だけで暮らしていけるのは1割足らずとされ、多くがアルバイトで生計を立てているという。
事務所を通じた仕事でも、支払われたギャラの数割しかもらえない場合があると聞く。吉本興業は慣例的に所属芸人とマネジメントを巡る契約書を交わしていないという。
「生活が苦しくてもお笑いの仕事をしたい」という芸人は多い。そこに、反社会的勢力は巧妙な手口でつけ入ろうとする。事務所はこうした芸人を守る必要がある。
一方で、吉本興業には、所属芸人を指導し、監督する責任がある。今回、関係した芸人らは当初、金銭の受け取りを否定していたが、後になって認めた。事務所は若手らを対象に定期研修を実施してきたが、形だけに終わっていなかったか。
吉本興業では数十人の若手芸人を1人のマネジャーが担当する場合もあるという。所属芸人の増加に事務所の態勢が追い付かなくなっていた面もありそうだ。
吉本興業は近年、国や自治体の仕事を多く請け負うようになってきた。所属するお笑い芸人も政治や経済、社会現象について発言する機会が増え、影響力は大きい。
今回、吉本興業は法令順守の再徹底を誓う「決意表明」を公表しただけで、いまだに記者会見を開いていない。まず、社会的な責任を自覚し、果たすべきだ。