「郵便局なら安心」と考えた顧客は裏切られた思いだろう。日本郵政傘下のかんぽ生命保険と日本郵便が顧客に不利益を与えた不正契約が9万件超にのぼることが判明した。
保険の乗り換え時に保険料を二重取りしたり、経済合理性のない不利な契約に変更させたりした例が2万8000件近くあった。
局員から乗り換えを勧められ、旧契約を解約したものの、健康状態などを理由に新契約に入れず、無保険状態になった例も1万8000件超あった。顧客に不利益な契約に乗り換えさせる行為は保険業法違反だ。
これまで判明した不正は、2014年4月からの5年分にとどまり、全容解明はこれからだ。かんぽ生命は外部有識者による調査の対象範囲を明らかにしていないが、顧客の不安を解消するには、疑いのある全ての保険をチェックする必要がある。
不正の最大の原因は、かんぽ生命から保険販売を委託された日本郵便のノルマ至上主義だ。年間約3600億円の委託手数料を維持するため、全国約2万の郵便局で新規契約獲得を競わせていた。
成績優秀者に手当をはずむ一方、成績不振者には研修や顧客の少ない地域への配置換えなどの「ペナルティー」を科していた例もある。
悪質な保険料の二重取りが横行した背景には、旧契約解除を新契約加入から半年以上遅らせれば、「乗り換え」でなく、手当が多い「新規契約」として扱う評価基準があった。
今回の不正は郵政民営化に伴う07年の日本郵政グループ発足以来、最大級の不祥事だ。「安心」を売り物にしてきた郵便局のブランドイメージは大きく失墜した。
日本郵政を巡っては、ゆうちょ銀行でも今年に入って、投資信託販売で70歳以上の高齢者に不適切な勧誘をした例が多数見つかっている。
日本郵政グループのガバナンス(企業統治)不全は深刻だ。顧客サービス向上をうたった民営化の理念さえ疑われる。
にもかかわらず、グループを統括する日本郵政の長門正貢社長は不正に関する10日の記者会見に姿を見せなかった。危機感の薄さは否めない。
国の後ろ盾に頼らない真の自立経営に向け、日本郵政は不祥事体質一掃とガバナンス強化を急ぐべきだ。