毎日新聞
安倍晋三政権は成長戦略の柱として農業再生を掲げる。農地集積などで農家の生産性を高め、所得向上や担い手不足解消を図るとしてきた。
環太平洋パートナーシップ協定(TPP)締結などの通商戦略を進める上でも、国内農業の強化が大きな課題となってきた。
首相は参院選で「2017年の生産農業所得は19年ぶりの高水準になった」と成果をアピールする。「49歳以下の新規就農者が4年連続で2万人を超えた」とも強調している。
だが、都合のいい数字のつまみ食いではないか。所得増加は天候不順や肉牛飼育頭数減少による価格上昇が主因だ。就農者数も全体では減り続け、耕作放棄地が拡大している。
農林水産物・食品輸出額が伸び、目標の1兆円に近づいたことは成果かもしれない。
ただ、先行きは楽観できない。高品質・高価格の日本の農産物は海外の富裕層らに人気だが、生産コストを削減し、価格競争力を高めないと、需要先は広がらない。
国内農業が低迷を脱せないのは、多くの施策が農家の体質強化につながっていないからだ。18年産からの主食米の減反政策廃止は象徴的だ。
国が主食米の生産目標を決め、農家に数量を配分することはやめた。一方で、家畜の餌にする飼料用米への生産補助金を大幅に増やした。
飼料用への転作が加速し、主食用は生産が減り価格が高止まりした。生産性の低い農家が温存され、担い手への農地集積が進まなくなった。
自民党は16年の参院選で、TPPに反対した農業団体から猛反発を受けた。東北6県のうち5県で自民候補が敗れた。安倍政権は農業補助金などを拡充して、今回、多くの農業団体の支援を取り付けた。
参院選後に本格化する日米貿易交渉は、日本の農産物関税引き下げが焦点だ。首相は説明を避けるが、トランプ米大統領は「農業で大きな発表ができる」と予告している。
立憲民主党は参院選の農業政策で戸別所得補償制度を訴えている。国が農家に生産費と販売額の差を補填(ほてん)する制度だが、零細農家も対象で、バラマキ政策の域を出ていない。
農業の担い手の数はこの6年で2割も減っている。各党は農業再生に資する体質強化策を競うべきだ。
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