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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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 きょうはパリ祭。フランスで230年前、革命が始まったバスチーユ監獄襲撃の日を共和国成立の日として祝う。シャンゼリゼ大通りを軍隊がパレードし、エッフェル塔に花火が上がる▲本国では単に「7月14日」と呼ぶ。日本では戦前、クレール監督の同名の映画が「巴里(パリ)祭」と訳され、広まった。花売り娘のたわいない恋物語が、邦題の絶妙な語感で「ふらんすへ行きたしと思へども/ふらんすはあまりに遠し」(萩原朔太郎)の念をかき立てた▲クレール監督には「ル・ミリオン(100万)」「自由を我等に」など、世界恐慌から第二次大戦へ向かう1930年代を風刺した名作も多い。映画公開時、日本の世論は5・15事件や国際連盟脱退に「よくやった」と喝采していた▲世界に背を向けながら、同時に遠く花の都を夢見ていたのだ。感情任せの政治外交論は、今も昔も矛盾を抱え道を間違えやすい。戦後は一転、革命の標語「自由・平等・友愛」への尊敬からフランス熱が高まり、巴里祭は俳句の季語にもなった▲今度は思想の裏付けも伴った憧れのはずだった。それが冷戦終結の89年、革命200周年を境に変わりだす。移民や宗教、経済格差などのあつれきから、本家で三つの理念が揺らぎ、今やパリはテロや暴動に脅かされている▲某大学でパリ祭という言葉を口にしたら、学生は誰も知らなかった。自由も平等も友愛も、世界中で意味が変わり価値が薄れていくかに見える時代、かつて輝いていた造語も魅力を失うのだろうか。

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