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スミレの香り

/53 馳星周 画 田中靖夫

 カムイが立ち止まって、わたしは我に返った。

 カムイは正面を見据えている。犬を連れた人間がこちらに向かってきていた。心ここにあらずのわたしにカムイが注意を促したのだ。

「悪かったな」

 カムイの頭を撫(な)で、わたしは足を前に出した。すれ違いざま、トイプードルとまだ若い女性に頭を下げる。トイプードルはカムイに向かって牙を剥(む)いたが、カムイは平然と無視した。

 女性はまるで悪者から守らなければというようにトイプードルを抱き上げ、足を速めて去っていった。

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