多くの人気作品を制作してきた「京都アニメーション(京アニ)」のスタジオが放火され、多数の犠牲者が出た。残忍な事件に憤りを覚える。夢を絶たれた多くのスタッフらの死を心から悼みたい。
現場となった京都市伏見区のスタジオは京アニの主力拠点だった。41歳の男が「死ね」などと叫びながら押し入り、ガソリンのような液体をまいたという。現場周辺で複数の刃物も見つかっている。
背景には強い恨みの感情があったのだろうか。だがどのような内容であれ、卑劣な犯行を正当化できるものではあり得ない。動機など事件の背景について解明が待たれる。
京アニは1981年と比較的新しい創業ながら、「涼宮(すずみや)ハルヒの憂鬱」「聲(こえ)の形」などヒット作を多数手がけた。東京に拠点を置く制作会社が多い中、京アニは京都からの文化発信をうたい、人材育成にも力を入れていたという。
日本文化の象徴としてアニメが国際的にも注目される中、京アニはその重要な担い手だ。アニメづくりを目指す若者の間で、京アニは就職先として憧れの存在だったという。
時代は違えど、アニメづくりに情熱を傾ける若者らの群像を描くNHKの連続テレビ小説「なつぞら」のような世界がそこにあったことを思えば、無念というほかない。
事件当時、3階建てのスタジオでは約70人のスタッフが働いていた。現代のアニメは多くの作業がコンピューター化されているが、それでも多くのスタッフが机を並べ、資料や原画など可燃物も多かったはずだ。
そんな場所でガソリンなどが燃え上がれば、対処はできまい。逃げ場のない室内で猛煙に巻かれた被害者のことを思うと、胸がふさがる。
一方で、たとえガソリンによる放火でも、あっという間にビル全体が炎と猛煙に包まれてしまったのは不可解だ。2001年に発生した東京・歌舞伎町の雑居ビル火災では44人が亡くなったが、防火扉が固定されていた不備が明らかになった。
今回の火災で、防火扉の設置や作動状況はどうだったのか。消火設備は備わっていたかなど、詳しい検証が待たれる。多くの人が出入りする場所では、不測の事態にも備えるべく防火策の再点検を進めたい。