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オーケストラのススメ

~33~ 「調布国際音楽祭」フェスティバル・オーケストラ~鈴木雅明のチャイコフスキー

山田治生

フェスティバル・オーケストラと鈴木雅明 (C)Hikaru Hoshi

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 調布国際音楽祭(6月23~30日)は、今年で7回目の開催。調布で育った鈴木優人がエグゼクティブ・プロデューサーを務め、鈴木雅明が監修を担う。テーマとして、「バッハの演奏」、「アートとの連携」、「次世代への継承」を掲げ、バッハを中心としながらモダンな音楽(今回は山下洋輔による「ラプソディ・イン・ブルー」もあった)まで取り上げ、また、国際的なアーティストから地元の市民音楽家までが参加する、ユニークな音楽祭である。今年は、鈴木優人指揮のバッハ・コレギウム・ジャパンによるモーツァルトのオペラ「後宮からの誘拐」(演奏会形式)が注目された。

 調布国際音楽祭のフェスティバル・オーケストラは、2016年からスタートし、今年で4回目。毎回、鈴木雅明が指揮し、年によって客演指揮者も招かれる(2016年は下野竜也、2017年はポール・グッドウィン、今年はシモーネ・メネセス)。鈴木雅明といえば、バッハ演奏の権威であるが、このフェスティバル・オーケストラでは、バッハの作品、及び、鈴木がこれまであまり指揮してこなかった古典派やロマン派のレパートリーが取り上げられている。昨年のベートーヴェンの交響曲第5番も今年のチャイコフスキーの交響曲第5番も、鈴木雅明にとっては、このフェスティバル・オーケストラでの演奏が初めての指揮であった。

 フェスティバル・オーケストラのメンバーは、公募され、その多くは、録音や書類の審査で選ばれた若手プレーヤー(音楽大学生、高校生、大学生、一般市民)である。今年は、シンガポール国立大学(NUS)のヨン・シゥ・トゥ音楽院から11人の学生(国・地域は日本、台湾、中国、シンガポール、マレーシア、ウズベキスタンと多様)も参加。リハーサルはすべて英語で行われたという。首席奏者には、コンサートマスターの白井圭をはじめとして、ヴァイオリンの瀧村依里、ヴィオラの鈴木康浩、チェロの遠藤真理、コントラバスの西山真二、フルートの上野星矢、オーボエの荒木奏美、クラリネットの横川晴児、ファゴットの坪井隆明、ホルンの今井仁志、トランペットの斎藤秀範、トロンボーンの荻野昇、テューバの藤田英大、ティンパニの久保昌一、ハープの高野麗音ら、在京オーケストラの首席奏者やソリストとして活躍するトップ・プロが集い、若者たちをリードする。

ブラジル出身のシモーネ・メネセス(右) (C)Hikaru Hoshi

 フェスティバル・オーケストラの演奏会は、6月29日に調布市グリーンホール大ホールでひらかれた。まずは、恒例となっている鈴木雅明指揮でのバッハ。今年は、カンタータ第42番「その同じ安息日の夕方」BWV42よりシンフォニアが選ばれた。弦楽器が7、6、5、4、2という小ぶりな編成。俊敏なモダン奏法を生かした、機敏で快活な演奏が聴けた。

 続いて登場した、シモーネ・メネセスは、1977年、ブラジル生まれの女性指揮者。パーヴォ・ヤルヴィのアシスタントを務めるなどして、キャリアを積む。ヴィラ=ロボスの「ブラジル風バッハ第7番」が取り上げられたが、それは彼女の祖国の音楽であると同時に、この音楽祭のテーマの一つである「バッハの演奏」にもちなんでいるのだろう。メネセスはキレの良い指揮を披露。弦楽器の首席奏者たちが懸命のリード。

 休憩後の後半は、メネセスの指揮するオネゲルの交響的楽章「ラグビー」から始まる。この秋、調布市の味の素スタジアムも会場となるラグビーのワールドカップにちなんだ選曲であることはいうまでもない。しかし、この作品は演奏が容易ではない。若い奏者たちは、首席奏者を頼りに、複雑な音符やリズムに必死に食らいついていく。メネセスの指揮がさえる。

公募により結成されたフェスティバル・オーケストラ (C)Hikaru Hoshi

 そして最後は、鈴木雅明の指揮で、チャイコフスキーの交響曲第5番。鈴木にとって初レパートリーであるが、チャイコフスキーは、弦楽セレナーデを3年前のフェスティバル・オーケストラで取り上げている。彼は、若い頃、チャイコフスキーの交響曲第4番、第5番、第6番が大好きで、ピアノ協奏曲第1番を弾いてみたが挫折したという。鈴木はツイッターの投稿で「チャイコフスキーは、恐ろしい! 自分の最も深いところにある原初的感性が呼び覚まされて、ああ、もう一歩で甘美な奈落の底に……。でもバッハで培った理性が、かろうじて自分を引き留めている」と記している。

 調布国際音楽祭のテーマの一つ「次世代への継承」はこの音楽祭の教育的な性格を示し、フェスティバル・オーケストラにおいても、クラリネットが8人舞台に乗り、4人ずつ、前半と後半で出番を分けたり、トロンボーンが5人舞台に乗ったりするなどの、教育的な配慮がなされていた。弦楽器は、10、8、6、4、4人。一般的な編成よりも、管楽器が厚く、弦楽器は小ぶりであった。

 第1楽章、4人のクラリネット(通常2人)の演奏で始まり、驚かされる。何かの歴史的根拠があるのか、あるいは教育的な配慮なのか。冒頭部分のクラリネットの表現は抑揚が大きい。甘美な第2主題は、ためを取らず、速めで、ある意味、古典派のような格調の高さ。第2楽章は、熱っぽく、テンポの揺れもあるが、基本的にはすっきりと描かれる。4人という少ない編成であったチェロの首席奏者、遠藤真理がコンチェルトを弾いているかのような音量でパートを引っ張る。第2楽章以降、オーケストラ全体に一体感が増したように感じられた。第4楽章冒頭の主題での、弦楽器のシェイプアップされた短めのフレージングも素晴らしかった。まさに鈴木雅明のチャイコフスキーというべき表現だ。第4楽章のコーダは、歓喜に満ち、非常にポジティブに感じられた。そして頂点でのシンバルの一撃にも驚かされた。これも歴史的な根拠のある一撃なのであろうか。最後は快速テンポで締めくくられる。

 バッハ演奏の権威である鈴木雅明が、最もロマンティックな交響曲の一つであるチャイコフスキーの第5番をどう指揮するのか、興味津々であったが、情熱的でありながらも、古楽的なすっきりとした音の扱いが見事であった。

 フェスティバル・オーケストラのメンバーは、音楽大学の学生に限らず、広く募集されている。若いプレーヤーにとっては、世界的なマエストロ、鈴木雅明のもと、各楽器の名手たちと5日間みっちりと音楽を作る、貴重な機会となる。来年以降も、数多くの腕に自信のある若者たちに積極的に参加してほしいものである。

筆者プロフィル

 山田 治生(やまだ はるお) 音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

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