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クトゥーゾフの窓から

ウクライナ危機の現場を歩いた(9) 砲撃が続く最前線の村 東部マイオルスク村

かつて保育園だったウクライナ軍が駐屯する施設。今は、防備が固められていた=ウクライナ東部ドネツク州マイオルスク村で2019年7月12日、大前仁撮影

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 ウクライナ東部では2014年に軍とロシアの支援を受けた武装勢力の戦闘が始まり、5年が過ぎても収まる気配を見せない。7月中旬にウクライナ軍の許可を得て、最前線のドネツク州マイオルスク村を訪れ、銃撃や砲撃が続く中で暮らす人々を取材した。

 ドネツク州の主要都市の一つクラマトルスクから車で1時間あまり。マイオルスク村の約1キロ先は親露派の「ドネツク人民共和国」(DNR)が実効支配している。快晴の日中、その方角から何度となく乾いた銃声が響き渡った。それでも住民たちは慣れきった様子で、爆竹が鳴っている程度の反応しか示さない。

 「良くないことなのだが、銃声を恐れる感覚が鈍った。みんなリラックスしている」。住民の一人、スベトラーナ・サモロドスカヤさん(65)はこう話す。ウクライナでは7月21日に議会選が実施されたのだが、投票日に先立ち、村を訪れた男性の候補者が住民と話していると銃弾が彼の耳元をかすめたという。流れ弾だったのか、意図した狙撃だったのかは定かではないが、村が直面している危険を映し出した格好だ。

 以前の銃撃や砲撃は夜間に限られていたが、最近では日中に銃弾や砲弾が飛び交うことも珍しくなくなったという。私が訪れた前日の午前中も激しい銃撃に見舞われ、外出していたサモロドスカヤさんはしばらくの間、家まで戻れなかったと話す。「今では、どんな時間帯でも、どの方角からでも飛んでくる」と語る。

激しさを増す親露派の攻撃

無邪気に遊んでいたダーシャちゃん=ウクライナ東部マイオルスク村で2019年7月12日、大前仁撮影

 5月に就任したウクライナのゼレンスキー大統領は東部での戦闘停止を実現させようとしているが、親露派と背後に控えるロシアには応じる気配がない。マイオルスクの村民は「むしろ攻撃は激しくなっている」と口をそろえる。

 かつてこの村には2000人近くが住民登録していたが、長引く戦火の影響を受けて、300人程度まで減ったという。サモロドスカヤさんらが住む5階建ての集合住宅も50世帯が住んでいたが、今では18世帯になってしまった。

 2階に住むマリーナさん(31)の部屋では台所の窓の付近が銃撃されて、無数の弾痕が残っていた。マリーナさんは離婚し、2歳の長女ダーシャちゃんを連れて村に戻ってきたという。一人娘を見つめながら「この子まで銃声や砲撃音に慣れてしまって……」と表情を曇らせた。

 村の周囲に埋められた地雷による被害も後を絶たないという。サモロドスカヤさんによると、住民が放牧中の牛を捕まえようとしたり、森を横切ろうとしたりして、地雷を踏んで命を落とす事例も起きている。

 それでも一帯を管理するウクライナ軍の関係者はマイオルスク村について「まだ状況は悪くない方だ」と話す。村には食品や雑貨を扱う商店や薬局が残され、ATMでお金を引き下ろせるし、軍が破損した屋根の修理などに当たっていると説明する。近隣には砲撃される頻度が高く、わずかな住民しか残っていない村もあるという。

「どこにも行けない」と嘆く高齢者

サモロドスカヤさんらが住む集合住宅では多くの窓が著しく破損していた=ウクライナ東部ドネツク州マイオルスク村で2019年7月12日、大前仁撮影

 かつてマイオルスク村には鉄道駅があった。しかし14年にウクライナ軍と親露派の戦闘が激しくなると、列車の運行が止まり、線路上には貨物車が取り残されていた。この方角にはウクライナ軍が配備されていることから撮影は認められなかったが、貨物車の一部がさびている様子が確認できた。

 村内には鉄道で勤務していた住民も少なくないようだ。そのうちの一人、バレンティーナ・アヌフリエワさん(65)は別の集合住宅に住んでいる。室内を案内してもらうと、度重なる砲撃の衝撃で窓ガラスが激しく破損し、ベニヤ板をはめ込んで雨風を防いでいた。戦闘が始まってからの5年間は暖房も止まったままだという。

 「40年も鉄道で働いてきたのに、月額の年金は2000フリブナ(約8500円)に過ぎない」と、アヌフリエワさんは怒りを込めて話す。同じく鉄道職員だった夫は脳卒中で闘病中だから、破損したガラスを修理するような経済的な余裕がないと嘆く。2人の息子は南部オデッサとロシアの首都モスクワ近郊に住んで、離れ離れになって久しいという。

 アヌフリエワさんがこの集合住宅に入居してから40年近くが過ぎた。ソ連崩壊後には民営化が進み、今では自分の持ち部屋となっている。「ここから出ていった方がいいと勧告されている。でも我々高齢者は今更部屋を借りるようなお金を持ち合わせていない。どこへ行けというのか」。アヌフリエワさんは一緒にいた隣人と声をそろえて現状を嘆いた。

伏せられた対露批判

 私は3時間ぐらいマイオルスク村に滞在し、10人近くに話を聞き、破損した家屋を見て回った。最前線の村の惨状を目にして気持ちが落ち込んだ一方で、奇妙な気持ちにもとらわれた。何かがしっくりとこないのだ。しばらく、その原因を考えているうちに気がついた。

木の幹には砲弾が突き刺さっていた=ウクライナ東部ドネツク州マイオルスク村で2019年7月12日、大前仁撮影

 それは日々、親露派から攻撃を受けながら、村民の誰もがDNRや背後に控えるロシアを批判しないということだ。その代わりに、親露派との戦闘を進めた自国のポロシェンコ前大統領への非難が止まらなかった。更に国内で政財界を牛耳るといわれている財閥経営者(オリガルヒ)を非難し、「この戦争はオリガルヒ同士の戦いだ」との声が上がった。

 戦闘開始から5年が過ぎた東部の紛争について、ウクライナ政府は「ロシアによる侵略だ」と非難する。ロシアの情報機関に所属していたイーゴリ・ギルキン氏(別名ストレルコフ)が自国の関与を証言したが、ロシア政府は否定する。DNRも「ウクライナ軍との内戦だ」と主張し続けている。

 このような状況で、ウクライナが管轄する最前線で暮らす人たちがロシアの主張に賛同しているのだ。これは東部で続く戦闘の複雑な一面といえよう。マイオルスクの村民がどう語り、どんな考えを持っているのかについては次の回で詳しく述べたい。【大前仁】

大前仁

モスクワ支局記者 1969年生まれ。1996年から6年半、日経アメリカ社でワシントン支局に勤務。毎日新聞社では2008年から13年まで1回目のモスクワ支局に勤務。

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