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アフリカノート

性奴隷にされた女性たち コンゴ・カサイ地方の紛争

「バナムラ」に8カ月拘束されたカバジ・チブアブアさん。次女は民兵との間に生まれた=カサイ州チカパで2019年2月13日、小泉大士撮影

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 コンゴ民主共和国のデニ・ムクウェゲ医師らが昨年ノーベル平和賞を受賞し、撲滅に向けた機運が高まった紛争下の性暴力。だが、ムクウェゲ医師が活動するコンゴ東部ブカブなどと比べ、同国中部カサイ地方で起きている過酷な被害の実態はほとんど知られていない。記者は今年2月に現地を取材し、4月29日の朝刊紙面で報じた。紙幅の関係で紙面に載せることができなかった被害者や支援関係者らの証言を改めて紹介したい。

「レイプは民族浄化の一環だった」

「性交渉を拒否すれば殺すと民兵に脅された」と語るルバ人の女性=カサイ州チカパで2019年2月14日、小泉大士撮影

 2017年4月、夕暮れ時のコンゴ民主共和国カサイ州カモニア。アボカドの木が茂るセンゲ村に漂うのどかな空気は一変し、辺りは悲鳴に包まれた。チョクウェ人の民兵「バナムラ」がこつぜんと現れ、敵視するルバ人を無差別に襲ったのだった。

 カバジ・チブアブアさん(23)は、数百人の住民と森へ向かって逃げた。蚊よけのネットをバンダナのように巻き、顔に炭を塗った民兵の中には10代半ばの子供もいた。「民兵は住民を追いかけ、手にした山刀や棒、銃で殺した」と振り返る。

 夫を見失った彼女は、長男ベヤちゃん(3)をおぶって川を歩いて渡った。だが、当時6歳の長女ファトゥマちゃんは対岸に取り残された。数メートル先で民兵が長女に山刀を振り下ろしたが、どうすることもできなかった。

 チブアブアさんは長男と共に近隣のチコカ村までたどりついたが、村はすでにバナムラの支配下にあった。その日のうちに、5人の男からレイプされた。

 その後、大勢の人が集まってきた。住民の多くはチョクウェ人で、バナムラを支持していた。「このまま死ぬのか」と覚悟したが、アラスタという民兵が「2番目の妻にする」と言い出した。口論の末、男たちはルバ人のチブアブアさんの代わりにヤギをいけにえにすることを決めた。

 九死に一生を得たが、嫉妬したアラスタの妻にナイフで切りつけられた。右腕には今もその傷が残っている。

 それから8カ月。アラスタの言うことには何でも従った。「全く好きではなかったが、生きるためには仕方なかった」。逃げようとして、酒に酔ったアラスタに殺されかけたこともあったという。

 バナムラの拠点だった農場には約160人の女性や子供が捕まっていた。民兵に見張られながら農作業をして、夜になるとアラスタにレイプされた。「性奴隷として屈辱を味わわされた」。チブアブアさんは感情を押し殺すかのように、ゆっくりと言葉をつないだ。

 最後は見かねた村長が脱走するのを見逃してくれた。すでにアラスタの子を身ごもっていた。昨年誕生した次女は7カ月になる。

 死んだと思っていた夫とも再会したが、当初はレイプされた妻と一緒に住むことをかたくなに拒んだ。夫以外との性交渉はタブー視されている。まして次女の父親は民兵だ。支援団体の関係者らが説得を重ねた末、ようやく受け入れてくれた。

 人道に対する罪が繰り返されたカサイ地方の紛争。バナムラはルバ人の男性を殺害し、拉致した女性を妊娠させた。父系性社会のため、生まれた子はチョクウェ人とみなされる。地元NGOの代表は「レイプは民族浄化の一環だった。やつらは地域からルバ人を一掃しようとした」と語った。

「民兵に拘束されたままの女性たちを早く助けてほしい」と語るカピンガ・マリーさん=カサイ州チカパで2019年2月13日、小泉大士撮影

「なぜこんなことになったのか……」

 コンゴでは1960年の独立以来、内戦や紛争が何度も繰り返されてきたが、アンゴラ国境に近いカサイ地方は数年前まで異民族が共存する平和な場所だったという。

 「何世代にもわたってルバ人とチョクウェ人は仲良く暮らし、夫婦になるのも珍しくなかった」。チョクウェ人主体の民兵組織「バナムラ」の拠点に1年4カ月拘束されたバカムビャ・モニクさん(32)はこう話した。

 16年に中央カサイ州で始まったルバ人の民兵集団「カムウィナ・ヌサプ」の反乱は勢いを増し、翌年には隣接するカサイ州に迫った。対抗してできたバナムラは村の自警団をかたったが、ルバ系住民の虐殺や拉致を繰り返したという。

 モニクさんの証言は衝撃的だった。「50人の男が私たち5人を代わる代わるレイプした。嫌なら殺して川に投げると脅された。実際戻ってこなかった人もいる」。男たちの中には顔見知りの若者がいた。

 十分な食事を与えられず、掃除や洗濯を命じられた。民兵が村を襲った後、血だらけの服を川に洗いに行かされたこともあった。

 カピンガ・マリーさん(27)が住むカサイ州カモニアの村が襲われたとき、民兵は2歳の娘を木にたたきつけ、山刀を振り下ろした。カピンガさんも7人の男にレイプされた。

 「バナムラはどの家にルバ人が住んでいるか知っていたから、一軒ずつ探し回った。兵士や警官も一緒だった」

 やはりバナムラに捕まったヌガルラ・マリーさん(45)は「なぜこんなことになったのか分からない」と首を振った。民兵は、すべてのルバ人が敵対するカムウィナ・ヌサプに関係していると思い込んでいるようだった。

 ヌガルラさんによると、ある日突然、村からチョクウェ人の隣人が姿を消した。「秘密の会合」があったらしく、戻ってきたら態度がひょう変していた。

 カサイ紛争はもともと政府に対する反乱だったはずが、次第に民族抗争の様相を強めた。「政治家が村の有力者に金を渡して若者を動員させ、武器は軍が渡していた」(現地の国連関係者)。悲劇が拡大した背景には政治家による扇動があったとされる。

「多数の女性がまだ拘束されている」

 コンゴ民主共和国のカサイ地方で起きた紛争では、数千人の住民が兵士や民兵から性的暴行を受けた。紛争はピークを過ぎたが、今なお多数のルバ人女性らが「性奴隷」としてチョクウェ人主体の民兵組織「バナムラ」に拘束されたままだ。

 国連コンゴ安定化派遣団(MONUSCO)報道官は「この数カ月で解放された人もいる」とコメントしたが、現在の被害者数は明らかにしていない。

「今も多数の女性が民兵に拘束されている」と語るフェロメン・ムワンバ氏=カサイ州チカパで2019年2月15日、小泉大士撮影

 一方、カサイ州チカパのNGOによると、少なくとも120人の女性や子供が拘束された。このうち解放されたか、脱出したのは69人。同NGOのフェロメン・ムワンバ代表は「この数字は氷山の一角だ。拘束が続く被害者は数百人いる可能性がある」と指摘した。

 拉致された人はバナムラが拠点とする農場にとらわれていた。こうした農場は少なくとも10カ所あった。別の支援団体は80人の被害者を確認したが「治安や資金難で実態把握は難しい」と打ち明ける。

 ある団体の関係者は1人につき30ドルを払い、子供2人を助け出した。ムワンバ代表も昨年12月、村長を説得して子供2人を解放させたが、身代金を拒否すると交渉に応じなくなった。4歳と6歳の娘が捕まっている男性(48)は「『100ドル払わなければ、お前の子も奴隷にする』と電話がかかってくる」と訴え、シャツで涙をぬぐった。

 MONUSCOは、性奴隷にされている女性らを救出するようコンゴ政府に働きかけた。だが、政府は「『調査しても確認できなかった』と言って、存在すら認めようとしなかった」(国連関係者)。毎日新聞も政府に取材を申し込んだが、回答はなかった。

武力衝突は収まったが、地元住民は「紛争はまだ終わっていない」と訴えた=カサイ州チカパで2019年2月14日、小泉大士撮影

 カサイ紛争の性暴力は深刻な被害にかかわらず、その実態は明らかになっていなかった。アクセスが極めて悪く、記者は東部の主要都市ゴマから国連機で中央カサイ州カナンガに入った。隣接するカサイ州チカパまでは四輪駆動車で移動。約265キロの距離だが、ジャングルの中で悪路に何度も立ち往生し3日目にようやく到着した。地元記者が当局の目をかいくぐるのは困難で、外国人記者の取材も「ここまで来たのはあなたが3人目だ」と言われた。国際社会の関与を訴えるチカパの支援関係者の顔には無力感が漂っていた。【小泉大士】

小泉大士

ヨハネスブルク特派員。インドネシアの邦字紙で7年間勤めた後、2006年入社。さいたま支局、社会部を経て、2016年4月から現職。

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