二葉屋の主人夫婦は、お秋に暇を出すこともなく、淡々と働かせた。
「本当に有り難いことだと思います」
その恩があったから、お秋も、後に病で寝付いてしまった二葉屋のおかみを親身に看取(みと)ったのだろう。
「これからも、変わらずに忠勤なさい」
説教がましいのは承知の上で、富次郎は言った。
「甚さんのことは忘れっこないよね。だが、それ以外のことは忘れていい。この三島屋の変わり百物語が、まるごと聞き捨てにしてしまうからさ」
その言葉には、富次郎が恃(たの)んでいる以上の効き目があったようだ。頑(かたく)なな険を刻んでいたお秋の目元が、初めて緩んだ。
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