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同性愛への抑圧と闘った姿描く映画「トム・オブ・フィンランド」 配給会社がこだわった「修正なしでの公開」

映画「トム・オブ・フィンランド」より(C) Helsinki-filmi Oy, 2017

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 同性愛が罰せられた第二次世界大戦後のフィンランドで、ゲイの男性の姿を描き、後に世界的なゲイカルチャーをけん引した画家トウコ・ラークソネン(1920~91年)。彼の人生を描いた映画「トム・オブ・フィンランド」が8月2日に公開される。フィンランドではラークソネンの勇気がたたえられ、記念切手にもなっている。この作品の配給会社「マジックアワー」代表の有吉司さんは、彼の雄姿を「若い人に見てほしい」と意気込むが、日本では「映画倫理機構」の審査で「R18+」に区分され、18歳未満は鑑賞できない。1度目の審査では、「R18+の基準を超える過激な描写」だとして区分も与えられず、無修正では上映できない恐れもあった。映倫と話し合いを重ね、上映にこぎつけた有吉さんは、「映倫の規制は、映画文化を守るためのものではなくなっている」と訴える。【中嶋真希】

 体にフィットした革の服を着た筋肉質な男性たちが、バイクに乗ったり、キスをしたり--。ゲイが開放的な性を楽しむ姿を描いたのが、「トム・オブ・フィンランド」の名前で知られるラークソネンだ。20年にフィンランド南西部の小さな町で生まれ、20歳で陸軍に招集された。終戦後、イラストレーターとして活躍し、大手広告代理店「マッキャンエリクソン」のアートディレクターにも就任した。

 イラストレーターとして活躍する一方、ラークソネンは自室で隠れてゲイ男性のイラストを描いていた。57年、米国のゲイ雑誌の表紙になったことで評判に。ゲイカルチャーをけん引する存在になり、「クイーン」のボーカル、フレディ・マーキュリーにも影響を与えた。彼の人生を映画化した「トム・オブ・フィンランド」は2017年に公開され、米アカデミー賞外国語映画賞フィンランド代表に選出された。フィンランドでは、ミュージカル化もされている。

「トム・オブ・フィンランド」の配給会社「マジックアワー」代表の有吉司さん=中嶋真希撮影

 有吉さんは、海外の映画祭でこの作品と出合い、偏見と闘い、表現を諦めない映画の持つメッセージにひかれた。昨今、日本での人種差別やヘイトスピーチに強い危機感を持っていた有吉さんは、同性愛差別と闘う同作品に共鳴した。

 若い人にも広く見てほしい--。そう考えて上映に向けて準備していたが、作品を映倫の審査に出すと、性器が映ったポスターが壁に張られたシーンがあることなどから「2カ所の修正でR15+、1カ所の修正でR18+。修正なしでは区分は与えない」という結果が出た。映倫によると「R18+の基準を超える著しく過激な描写・表現のある映画はR18+の範囲外であり、映画館等の公共の場での観覧には不適切とみなし、区分は与えない」としている。有吉さんは、「R15+にはなるだろうと覚悟していたが、まさか区分も与えられないとは」と驚いたという。「映倫の自主規制の内容は、映画文化を守るためのものではなくなっている」と感じた有吉さんは、映倫に異議を申し立て、協議を重ねた。

「映画の表現に必要」修正には応じなかった

 映倫は自主規制団体で法的な強制力はないが、多くの映画が映倫の審査を受けてから公開される。審査料は1分あたり2460円で、90分の映画で20万円ほど。審査後、「G」(一般・年齢制限なし)、「PG12」(12歳未満は保護者の助言・指導が必要)、「R15+」(15歳未満の鑑賞不可)、「R18+」(18歳未満の鑑賞不可)の4段階に区分される。直接的な性行為や、それにかかわる性器の描写があれば、R18+に区分される。

 同作品は、性器が映っていると指摘されたシーンを修正すれば「R15+」に区分され、高校生もこの映画を見ることができた。しかし、有吉さんは「修正を求められた箇所は、映画の表現に必要」であることと、「表現の自由を求めて闘う」内容の作品で自分たちが屈したくないという思いなどから修正に応じなかった。

 有吉さんは映倫に計5回通って話し合い、その結果、修正なしでも「R18+」の区分が与えられることになった。しかし、高校生にも見てほしいという思いはかなわなかった。

映画「トム・オブ・フィンランド」より(C) Helsinki-filmi Oy, 2017

良質な映画が「成人指定」 若者の映画離れ危惧

 これまでも多くの北欧の映画を配給してきた有吉さんは、「元々、北欧は開放的な性表現が多く、修正を求められることが多かった」と言う。しかし、こうした良質な映画が「成人映画」に指定されることで、若者が映画から離れてしまうことを危惧する。「高校生がアート系の映画館にまったく来なくなっている。この状況を映画業界全体で打破しないといけないのに」

 有吉さんは「性器が映れば修正を求められることにばかばかしさを感じるが、芸術性を加味して規制することになれば、逆に規制を助長することになる」と一筋縄ではいかないと感じている。しかし「映倫の審査を担うのは、50~60代ばかり。もっと若い人も審査員や映倫委員に迎え、基準は変えていくべきだ」と危機感を持つ。

 映倫の浜田純一委員長は毎日新聞の取材に対し「性器が映る表現と一言で言っても、現実の表現には無数のバリエーションがある。映倫では、多角的な観点から審査を行っている」とした上で、「映倫の審査方針及び分類基準は、社会通念等に応じて変化しうるものであり、性器が映る表現、性表現などはもちろん、暴力表現や未成年飲酒・薬物利用の表現等も含めて、問題となりうる表現をめぐる区分のあり方、許容度のあり方については、社会的に広く議論されていくことが大切であると考えている」と回答した。

田亀源五郎さん「作家に再度スティグマ与える」

 10代でラークソネンの作品と出合い、大きな影響を受けたのが、ゲイ雑誌「薔薇族」などで漫画を発表してきた「ゲイ・エロティック・アーティスト」の田亀源五郎さんだ。ゲイ向けの漫画や小説で圧倒的な人気を誇るだけでなく、一般誌で連載した漫画「弟の夫」は、NHKでドラマ化もされた。田亀さんは、「表現者を志したころから、『アートとポルノは両立し得るのではないか』と考えるようになったが、ラークソネンは(ヌードのポートレートで知られる)ロバート・メイプルソープの作品と並んで、それが可能であることを私に示してくれた」と語る。

 田亀さんは、映画が「R18+」に区分されたことを「内容的にも表現的にも、成人指定に相当するとは思えない。プライドと信念でエロチックアートに対するスティグマ(負のレッテル)をはね返したアーティストの、とりたてて過激な性表現があるわけでもない伝記映画に対して、作家に再度スティグマを付与する行為のようにも感じられ、ファンとしては怒りすら覚える」と語る。性器が規制の対象となることに対して、「その基準は時代錯誤であり、同時に表現というものを考えるにあたっての思考停止状態だと感じる」と憤る。

映画「トム・オブ・フィンランド」より(C) Helsinki-filmi Oy, 2017

 「トム・オブ・フィンランド」は、北海道青少年健全育成条例ではピンク映画などとともに有害興行に指定された。世間はこの作品をどう評価するか。映画は8月2日から東京・ヒューマントラストシネマ渋谷を皮切りに、全国で順次公開される。

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