メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

  • 政治プレミア
  • 経済プレミア
  • 医療プレミア
  • トクトクプレミア
号外埼玉知事選、大野氏初当選 与党系候補破る
神と喧噪の南アジアから

取材後記 ドーハで見たタリバン(下)

当事者間対話の前に話し込むタリバンのメンバー=ドーハで2019年7月8日、松井聡撮影

[PR]

「他者」に対する不信感

 「タリバンは自分たち以外を誰も信用していない。長年にわたりいろいろと裏切られてきたと感じているからだ。とりわけ外国や外国人に対する猜疑(さいぎ)心は根深い」。タリバンを長年取材してきたパキスタン人ジャーナリストはこう解説する。

 外国に対する不信感は、欧米だけなく、関係が深いとされている隣国パキスタンに対しても同様だという。パキスタンの軍情報機関(ISI)は、タリバン発足当初から支援をしてきたとされる。タリバン幹部によると、意思決定機関である「指導者評議会(クエッタ・シューラ)」のメンバーの多くは現在もパキスタンに住み、政治事務所の中にもISIと密接な関係があるメンバーもいる。それでも、このタリバン幹部は「メンバーの多くがパキスタンの重要性は認識しているが、心の底では信じていない」と指摘する。

 彼は、タリバン政権で駐パキスタン大使を務めたアブドゥルサラム・ザイーフ氏を例に挙げた。ザイーフ氏は政権崩壊後、米軍に引き渡されてグアンタナモ米海軍基地に収容された。タリバン内では、これがパキスタンの裏切りによるものだと受け止められている。このようなケースが積み重なって、パキスタンへの警戒感につながっている。このジャーナリストは「パキスタンがタリバンに影響力を持つというのは間違いない。しかし、タリバンはパキスタンとうまく距離を取ろうとしており、必ずしもパキスタンの思い通りに動くわけではない」と解説する。

 米軍撤収に向けて協議が進む米国に対しても不信感は根強い。タリバンのシャヒーン報道官によると、タリバンと米政府当局者との外交的接触は2010年ごろにドイツで始まっており、関係は10年近く続いている。最近は米国のアフガニスタン政府に対する働きかけにより拘束されていたタリバン兵が解放されるなど、米国は信頼醸成を図ってきた。それでも、報道官は「米国を信用していない。米国との合意がイラン核合意のようなことにならないために、我々には合意の保証人が必要だ」と説明する。また、アフガン国内でタリバンと対立する過激派組織「イスラム国」(IS)を米国が支援していると信じるタリバンのメンバーは少なくない。報道官も「米国がISを利用してタリバンを弱体化させようとしている可能性は高い」と話す。

 タリバン政権を過去に承認していたサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)との関係も、現在は悪化している。01年以降、サウジやUAEは米国と歩調を合わせてタリバンを「テロリスト」と非難するなど、タリバン側からすると「裏切られた」と思う事例が相次いだためだ。

 記者もタリバンの警戒対象となっている。タリバンの交渉団メンバーは、特定のアフガン人記者の名前を挙げて、「彼はCIA(米中央情報局)とISIのダブルエージェントだ。他にも、各国の情報機関とつながっている記者は何人もいる。彼らは情報を探るだけでなく、プロパガンダも行っている」と警戒心を隠さなかった。私も実際は警戒されていた可能性もあるが、特にそれを感じる場面はなかった。私を仲介したのはこのメンバーと20年以上付き合いがある人物だったことや、米国やパキスタンなどによるタリバンを巡る「情報戦争」に日本が加わってこなかったことが背景にあるのかもしれない。

 当事者間対話の会場となったホテルの洗面所で見かけたタリバン交渉団メンバーの姿は印象的だった。彼は用を足している最中、しきりに首を振って背後を気にしていたのだ。この人物は、廊下でも周囲を気にするそぶりを見せていた。後で聞くと、彼もまたタリバン政権崩壊後、グアンタナモ米海軍基地に収容されていたという。こんなところでも彼らの警戒心の根深さを感じた。

 アフガンは19世紀以降、英国、ロシア、米国といった大国に翻弄(ほんろう)されてきた歴史があり、タリバンの源流も旧ソ連の侵攻に抵抗したムジャヒディン(聖戦士)だ。猜疑心の根深さは歴史的な経緯に由来するものでもある。

インタビューに応じたタリバンのスハイル・シャヒーン報道官=ドーハで2019年7月6日、松井聡撮影

タリバンと「共存」する必要性

 「写真は撮るな。さっきインタビューに応じたじゃないか」。当事者間対話の会場で、タリバンのスタネクザイ氏とアフガン政府からの出席者が談笑している姿を見つけて、カメラ片手に駆け寄った時だ。スタネクザイ氏が私に向かって大声を上げた。タリバンは表向きアフガン政府との交渉を拒否しており、談笑している写真はまずかったのだろう。ただこのシーン以外にもタリバンのメンバーと他の出席者が談笑したり、抱き合ったりする光景は何回も見られた。「穏健化のアピール」と見ることもできるだろうが、タリバンが「演じている」ようには見えなかった。和平の実現に期待を抱かせるものだった。

 今回の当事者間対話は「タリバンとアフガン政府が初めて同席した」と報じられたが、実は12年に両者は同席している。日本の京都で開かれたアフガン和平に関する会議だった。同志社大が主催し、両者のほか、他の政治勢力も出席し、それぞれが和平に向けて意見を表明した。イスラム学者の中田考・同志社大元教授がタリバンの招請に尽力したという。タリバンは出席した理由に、日本が自衛隊をアフガンに派遣していないことや、国ではなく民間の主催だったことなどを挙げた。アフガン人ジャーナリストは「京都での会議は画期的だった。あの会議を和平プロセスにつなげることができず、次に両者が同席するまで6年もかかってしまったことが悔やまれる」と話す。

 当時も現在もタリバンの主張はほぼ一貫しており、厳格で強硬だ。仮に米軍撤収後に停戦できたとしても、選挙に基づく民主主義を受け入れるかなど、タリバンとアフガン政府を含む他の勢力が容易に一致できないような課題も多い。また周辺のパキスタン、インド、イラン、中国、ロシアなど各国の利害調整がうまくいかず、対立の構図が持ち込まれれば混乱は続くだろう。ただ、どんなに困難な道のりだったとしても、タリバンを取り込んだ形で今後の政治や社会の体制作りをしていかない限り、アフガンの平和と安定が実現しないことは明らかだ。

 今回の当事者間対話は、カタールとドイツの両政府が主催した。米軍撤収が決まった後は、より幅広い国際社会の関与が必要になる。当事者間対話の取材を通して、出席者が本当に平和と安定を渇望していると感じた。タリバンも含めて和平の機運は盛り上がっている。18年にわたる内戦終結のため、国際社会ができる限りの支援をすべき時が来ているのではないか。【松井聡】

松井聡

ニューデリー支局記者。1982年生まれ。2005年に入社し、福井支局、大阪社会部などで勤務。宗教と民族の多様性、発展と貧困、政治の混乱など様々なキーワードでくくれる南アジア。今何が起き、そしてどこへ向かうのか。将来を展望できるような情報の発信を目指します。

おすすめ記事
広告
毎日新聞のアカウント
ピックアップ
話題の記事

アクセスランキング

毎時01分更新

  1. ASKAさんが「CHAGE and ASKA」脱退を発表「ソロ活動に邁進」

  2. トランプ米大統領「まもなく最大規模の対日協定に合意する」

  3. 無党派層からの支持、大野氏は6割 青島氏は3割 埼玉知事選出口調査

  4. 杉田水脈議員の「住所さらし」ツイートは間違いだった 「扇動」責任の行方は

  5. 宇宙空間で初の犯罪容疑?NASA飛行士、口座不正侵入か

編集部のオススメ記事

のマークについて

今週のおすすめ
毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです