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受験で着る「勝負服」を神前で拝む 台湾の大学受験事情を探った

台北市の道教の寺院「文昌宮」では大勢の受験生や保護者が合格祈願をしていた。手前には縁起物が並んでいる=2019年6月28日、陳瑞涓撮影

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 台湾の受験競争も日本と同様、激しい。台湾では大学の新学年は9月に始まる。初夏の台北の寺院は、試験を控えた合格祈願の受験生であふれていた。日本と同じく進学塾に通う生徒も多い。近年は海外志向の学生も増えているという。台湾の受験事情を取材した。

道教寺院は験担ぎの受験生と保護者でいっぱい

 「どうか第1志望の大学に合格しますように」。6月28日、 台北市にある道教の寺院「文昌宮」。大勢の受験生や保護者が、一心不乱に祈りをささげていた。日本の大学入試センター試験と似た統一試験「大学入学指定科目考試」(指考)を7月1~3日に控えて行われた合格祈願式だ。

 文昌宮のご神体「文昌帝君」は中国で学問の神として知られ、台湾では「受験の神様」として最も有名だ。日本の受験生が菅原道真をまつる太宰府天満宮(福岡県)や北野天満宮(京都市)で合格祈願をするのと似ている。

神前に置かれた「勝負服」やネギ、ミネラルウオーターなど=台北市の文昌宮で2019年6月28日、陳瑞涓撮影

 受験生たちは、衣服を折りたたんで神前に供えていた。受験時に着る「勝負服」だ。祈願式が終わると持ち帰る。「受験会場は戦場のようなもの。衣服を前に祈ることで、神様のご加護を得られます」。文昌宮の管理委員会委員、白廖哲さん (58)が解説してくれた。受験生は受験票のコピーも持参し、神前に供えた後、こちらは文昌宮内に置かれた専用の箱に入れる。3日にわたる祈願式の最終日にあたる6月30日の深夜、神前で火に入れ、神にささげるという。

 母親と祈願に来ていた台北市の復興高校3年、李姿璇さん(18)は「医学系の学科を希望しています。神様に祈ったので、試験がとても順調にいき、希望の大学に行けると思います」と話した。

 台湾には縁起を担ぐ人が多い。神前には受験票のコピーや勝負服と共に大根やミネラルウオーター、ちまき、ネギ、セロリが備えられている。いずれも台湾語や中国語の語呂合わせから縁起が良いとされている。例えば大根は台湾語で「菜頭」(ツァイトウ)といい、「彩頭」(幸先がよい)と同音異義語。セロリは中国語で「芹」(チン)といい、「勤」(チン)と同音だ。ネギも中国語の「葱」(ツォン)が「聡」(ツォン)と同音のため験担ぎに使われる。文昌宮前の道路には、こうした縁起物を売る露店が所狭しと並ぶ。

「文昌帝君」などの文昌宮の神々に合格祈願をする人=台北市の文昌宮で2019年4月28日、福岡静哉撮影

全土統一試験は年2回

 台湾の大学受験制度は、日本より複雑だ。統一試験も年2回行われており、7月の指考は「最後のチャンス」となっている。

 受験生がまず挑むのは1月下旬の「大学学科能力測験」(学測)と呼ばれる統一試験。国語、数学、英語、社会、自然(日本の「理科」に相当)などから4科目を受験し、それぞれ2月下旬に15段階の評価を得る。公立、私立ともにこの成績に基づいて6学科まで出願ができる。複数の大学に出願することも可能だ。多くの大学は2次試験もあり、最終的な合否通知は5月にある。

 これとは別に指定校推薦制度に似た「繁星推薦入学」と呼ばれる制度もある。学測の成績に基づき各校から推薦された学生が大学に出願する。5月までにおおむね7割前後の受験生が合格通知を手にし、受験勉強から解放される。

師範大付属高校の3年生の授業風景。日本の高校と似ている=台北市の師範大付属高校で2019年5月8日、福岡静哉撮影

 ここまでで志望校に合格できなかった受験生は、7月初旬の「指考」に挑む。指考は9科目の中から5科目を選んで受験する仕組み。学測より各科目の出題範囲が広く、問題の難易度も高い傾向がある。台北市の高校に通う廖さん(18)は「学測で進学先が決まった同級生たちは羽を伸ばしている。その中で受験勉強に励まなければならないので少しつらい」と話す。

 5月上旬、台北市の師範大付属高校を取材に訪れた。台湾の最難関校とされる台湾大への進学実績でトップ3に入る進学校だ。3年生のクラスをのぞくと、化学の授業が行われていた。教師がチョークで黒板に化学式を書き、生徒たちが一生懸命、ノートに書き写していた。教室内の様子も日本の高校と似ている。異なるのは、生徒たちが飲み物の入った水筒やスマートフォンを机の上に置いていることだ。台湾の高校ではスマートフォンの持ち込みは許可されているという。

 教室の入り口には、ちまきの飾りがつるされていた。ちまきを包むことを中国語で「包綜」(バオゾン)と言う。合格を意味する「包中」(バオジョン)と音が似ており、これも験を担ぐためという。

 教室の出入り口付近にはこんな張り紙があった。「ドアをきちんと閉めない人には指考が待っている」。ドアの開け閉めをぞんざいにする生徒は「学測」で5月までに合格通知が受け取れず、7月の「指考」まで受験勉強を続けねばならないというプレッシャーだ。廊下の隅にはプラスチック、紙パック、ガラスなど種類別に分類するためのゴミ箱が置かれていた。ゴミ箱にはこんな紙が張られている。「紙パックをきちんとここに捨てる人は学測で満点」。「分別して捨てない人は浪人」。「きちんとゴミを分別して捨てる人は『台清交』に進学」。「台清交」とは、台湾で難関とされる台湾大(台北市)、清華大(北部・新竹市)、交通大(同)を指す。校内の掲示板には、各クラスで成績トップの生徒が顔写真つきで張り出されていた。

台北市の南陽街にある学習塾の玄関には「学測」で満点の生徒が54人いたと宣伝する紙が張られていた=台北市南陽街で2019年5月2日、福岡静哉撮影

高まる海外志向、中国留学も増加

 台北駅そばの南陽街と呼ばれる道路沿いには進学塾が建ち並び、夕方から夜にかけ、学校帰りに塾通いする生徒たちの姿がよくみられる。塾の入り口には難関校に合格した生徒たちの実名と学測の点数などが掲示されていた。

 進学塾「儒林」の広報担当、張維憲さん(49)は「少子化の影響もあり、南陽街も以前と比べ進学塾がかなり減った」と言う。一方で、海外の大学に直接、進学する生徒が近年、増えつつあるという。張さんは「特に成績がトップクラスの生徒たちの海外志向が強まっている。中国の大学への進学が以前より容易になったほか、米国、日本、韓国などでは学測の試験結果で受験できる大学も増えているためだ」と言う。

 台湾統一を目指す中国は近年、若者の取り込み策の一環として、各大学が台湾からの学生を積極的に受け入れている。台湾メディアによると、学測の結果で中国の大学を受験する生徒は2011年には1433人だったが、17年には2567人に急増した。

 師範大付属高校によると、18年の卒業生1017人のうち海外の大学に直接進学したのは6・8%に当たる69人にのぼった。1位は中国(30人)、2位が米国(18人)。日本は3人だけだった。中国では北京大、清華大(北京市)などトップ校への合格者も輩出している。同校の柯冠銘・校長秘書(38)は「18年の中国への進学者数は過去最多だった。経済大国である中国で世界でも名が知られた難関大学を卒業すれば、将来、仕事の選択肢が広がると考える生徒が増えているためだろう。地理的に台湾と近く、言語が共通していることも大きい」と説明する。中国で働く両親や親戚などを頼って中国の大学に進学する生徒もいるという。

中国の上海交通大学などに合格した師範大付属高校の陳子涵さん=台北市の師範大付属高校で2019年5月8日、福岡静哉撮影

 上海交通大学と浙江大学への合格を決めた3年の陳子涵さん(18)も父親が中国で働いている。「米国の大学は学費が高すぎるが、中国大陸の公立大学は学費が安く寮などの設備も充実している。中国は経済規模も大きく、将来進める道が広がると思う」と言う。中国共産党が統治し自由が制限されている点について不安がないか聞くと、陳さんは「中国に進学した先輩に聞いたら『中国大陸の学生とも普通に付き合えるから神経質にならなくていい』と言われた。大丈夫だと思う」と話した。

 中国の多くの大学が19年から受験の条件として設定する学測の基準点を大幅に下げた。今後、中国への進学者がさらに増える可能性がある。

台湾大も、海外大学との競争に必死

 受験生の海外志向の高まりに危機感を募らせているのが台湾内の大学だ。

台湾大学の正門前では5月、卒業式を控えた学生たちが記念撮影していた。前身は日本統治時代の1928年に創設された「台北帝国大学」だ=2019年5月18日、福岡静哉撮影

 台湾大は3月29日、師範大付属高校で学校説明会を開催した。管中閔学長は「台湾大でも国際的な一流大学と同様に、学業や専門的な能力を身に着けられる。海外の大学が近年、台湾の学生を積極的に勧誘しているが、北京大や清華大などの一流大に決して劣らない台湾大の魅力をもっと知ってほしい」と呼び掛けた。周辺の高校にも参加を呼びかけ、約900人が出席した。

 台湾大は中部・台中市で3月20日に、南部・高雄市でも4月25日に同様の説明会を開いた。台湾大教務部の李宏森・入学課長(52)は「台湾大がこうした説明会を開くのは初めて」と言う。背景には、優秀な人材が海外に流れているとの危機感がある。李課長は「台湾の学生に台湾大の魅力がきちんと伝わっていない。交換留学制度は充実しているし、新たな奨学金制度も来年度から設ける」と意気込む。今後は毎年、こうした説明会を開催する計画という。【福岡静哉】

福岡静哉

台北特派員。1978年和歌山県生まれ。2001年入社。久留米支局、鹿児島支局、政治部などを経て2017年4月、台北に赴任した。香港、マカオのニュースもカバーする。

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