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家事労働者に当たり前の権利を 支援団体が教育プログラム立ち上げに向け活動

公聴会参加者による意見表明では多くの人が中央マイク前に列を作った=米カリフォルニア州のサクラメントで4月、石山絵歩撮影

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家事労働者の権利を伝える、カリフォルニア州の取り組み

 私は5月末までフルブライト奨学金のジャーナリストプログラムで南カリフォルニア大に在籍し、移民家事労働者に関する研究をしてきました。家事労働者を雇うことが、これまで家事労働の主な担い手となってきた女性の生き方にどのように影響しているかをテーマに、家事労働者49人と、家事労働者を雇用する21人をインタビューしました。

 カリフォルニア州では2016年にようやく全家事労働者への時間外手当支給を義務づける法律が成立しましたが、家事労働者からは「法律が知られていない上に罰則がないから守られていない」という声が聞かれます。家事労働者を支援する団体が、家事労働者の権利を周知する教育プログラムの立ち上げに向けて活動する中、6月末、プログラム実施のための州予算が認められました。

 カリフォルニアでは約200万世帯で家事労働者が働いているという試算がありますが、個人が雇用する場合の賃金や福利厚生に関するガイドラインはありません。そうした個人による雇用は搾取など悪質なケースの要因にもなっています。家事労働者の支援団体メンバーは「当たり前の権利すら理解されていないのが家事労働産業の現実。予算獲得は変化への歴史的な一歩で、これからがスタートだ」と話します。家事労働者の労働環境は変わるのか? 予算要求のために陳情活動をした家事労働者と雇用者の双方を取材しました。

家事労働者の労働問題は、雇用する側の労働問題につながっている

 「私は昔、不法移民でした。だから安い賃金や雇用者からの身体的・精神的暴力にも声を上げられませんでした。声を上げても解雇されない権利があることさえ、知りませんでした。今でも同じような人はたくさんいます。移民問題で世の中が揺れているからこそ、どのような権利があるかを知らせるプログラムが必要です」

 カリフォルニア州議会の一室で4月に開かれた公聴会に出席した介護士、テリー(60)が自身の経験を証言しました。家事労働者の権利周知教育プログラムに予算を付けるか審議するための公聴会です。

 一方、家事労働者を雇用する側として証言したリンジー・イマイ・ホン(41)は、家事労働者の働く環境の改善がいかに自分にとって重要かを説明しました。「私は2児の母親です。そして外で働きに出ています。ナニーを雇わずして私は出勤することができません。カリフォルニアでは私と同じように、家事労働者なしには仕事をできない家族がたくさんいます。家事労働者が仕事を辞めれば、私たちは直接的な影響を受けることになります。彼らの労働環境を守ることは彼らだけの問題ではなく、すべての労働者の問題です」

 公聴会には多くの関係者が詰めかけました。家事労働者の権利団体、雇用者の支援団体だけではありません。家事労働者に移民が多いことから、移民問題に携わる団体も駆け付けました。総勢150人近くが集結し、部屋に入りきらないメンバーは外のモニターで証言に聴き入りました。

 公聴会では、2人の証言の後に、公聴会参加者による短い意見表明の時間がありました。部屋の中央に置かれたマイクに人々が列をなし、意見表明は約20分続きました。「ハウスクリーナーです。時給5ドルで働いていたこともあります。とても生活できませんでした。どのような仕事でも、どんな滞在資格でも、きちんとした賃金をもらう権利があると伝えたいです」。この家事労働者からの意見には会場からため息が漏れました。

 たまたま通りかかって参加したという男性の発言には、拍手があがりました。「証言を聞いて驚きました。確かに子供や、介護が必要な家族の面倒を誰かが見てくれなければ仕事に出かけられません。当たり前の事なのに、そんなこと思いも至りませんでした。雇用する際にどういう法律を守らなければいけないかを雇用者に伝えるこのプログラムは必要だと思います」

自分たちを過小評価するのをやめたい

 人一倍大きな拍手を送っていたフィリピン出身の介護士のリープラザ(58)は「アメリカでは多くの家庭がナニーや介護士を雇っている。私たちがストを起こせば、雇う側の家族は仕事に行けなくなって、社会の機能は止まる。でも『どうせお金に困っている。どうせ不法移民だ。ストなんか起こさないだろう』と決めつけられ、みんな私たちの存在意義に気づかない」と指摘しました。

 リー自身もかつて不法移民でした。最低賃金以下で働かされても、どこにも訴えることができなかったといいます。「このような働き方を続ける中で、私たちも自分自身を過小評価してしまう。それを変えるためにも自分たちの権利を知る必要がある」と話しました。

陳情のために替え歌を作り、練習する家事労働者ら=米カリフォルニア州のサクラメントで4月、石山絵歩撮影

 リーは今回の運動で、家事労働者の団体のリーダーとして陳情を重ねてきました。ロサンゼルスに住むリーにとって、州都サクラメントまでは夜行バスで片道8時間かかります。それでも「大変だとは思わない。きっと家事労働者の重要性に気づいてもらえるから」と笑い飛ばします。

 一方で、不安も漏らしました。教育プログラムは、家事労働者と雇用者の双方に必要なものであることを強調していますが、実際に陳情に参加する雇用者側はわずか。リーは「陳情をみても、雇用する側とされる側で関心の差が出ている。本当に家事労働者の状況が変わるのはまだ先かな……」とつぶやきました。リーは「プログラムの受講だけでは何も変わらない。本当に現状を変えるためには、家事労働者自身が自分たちを卑下せず、社会を支える一員であると自信を持つこと。雇用する側が、自分に引きつけてこの問題を考えられるかどうかにかかっていると思う」と話しました。

「働く前提」を支えているものを考える

 雇用する側の証言をしたリンジーは、家事労働者を雇用する人の支援団体「ハンドインハンド」で事務局担当をしています。以前は別の団体に勤めていましたが、出産を機に家事労働者の現状に関心を持つようになり、この団体で働き始めました。「私は子供ができても、働くことで自分の存在意義を持ち続けたかった。でも夫の稼ぎの方が多く、残念ながら夫が家事すべてをやるのは現実的ではない。2人とも働くためにはナニーを雇う必要があって、その時にこの問題に関心を持つようになった」といいます。

 リンジーは、「働くための前提」として、「家の中で起きていること(家事、育児、健康管理)」がある程度片付く必要があると説明します。その前提があって初めて「家の外で起きていること(仕事)」ができ、それは、パートナーや子供がいてもいなくても、普遍的なものだと指摘します。リンジーは、これまで多くの家庭で、「家の中で起きていること」を女性が担い、男性はその部分を省いて仕事に没頭してきたため、「働くための前提」について改めて考える機会があまりなかったのだと話しました。しかし、今は多くの家庭で女性も働きに出るようになるなどその構図は崩れつつあるといいます。

 リンジーは「多くの家庭で家事労働者を雇い始めているけれど、時給はいくらか、どのように雇用するのが適当か基準も示されていないから、みんな手探りで、多くの搾取が見逃される結果となっている」と話します。

 リンジーが働く団体がサンフランシスコ周辺で開催するナニー・介護士・ヘルパーを雇用するための講習への受講者は増えつつあり、州単位の実務的なプログラムは絶対に必要だとリンジーは強調します。「でも一番大事なのは、プログラムを通じて多くの人が『きょう自分が何の問題もなく家を出て仕事に向かえた背景に誰がいるか』を問うようになること。それこそが、家事労働そのものへの認識、敬意につながり、家事労働者の労働問題の根本的解決につながるはずだ」と話しました。

 陳情に2回同行する中で、何人かから「日本では保育園や介護施設のシステムが整っているんでしょう? こんな問題ないでしょう?」と尋ねられました。本当にそうだろうかと、疑問が浮かびます。日本でも保育士や介護士の低賃金や離職率の高さが常に問題になっています。どれだけの人が「この施設があるから私は仕事に行くことができた」と実感しているでしょうか。実感していても、それが施設で働く人たちの給料や待遇に反映されているとは言えません。みなさんは、今日仕事ができた背景を考える時、どのような人を思い浮かべ、どのようなことを感じるでしょうか(敬称略)。【石山絵歩】

石山絵歩

外信部記者。1984年生まれ、2008年に毎日新聞社入社。岐阜・愛知県警、東京地検担当を経て、東京地・高裁で刑事裁判を担当。事件取材の傍らで、経済連携協定(EPA)によって来日したフィリピン・インドネシアからの看護師、介護士候補生などを取材。18年9月~19年5月、フルブライト奨学金ジャーナリストプログラムでUSCに在籍し、家事労働者について研究。

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