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一人暮らしの三十男と「麻婆茄子」のおいしい関係[数字のないレシピたち Vol.1]

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決められた材料、分量、調理法などない。何にも縛られず、自分だけの「美食」を味わうために作る料理があってもいい。それはきっと、心満たす色鮮やかな時間をくれるはず。出張料理人・ソウダルアが綴る、人と料理と時間と空間の物語。

なすがままに、茄子を食す

夏も盛りになってくると、ぷっくりとふくらんでくる茄子。その艷やかな様がなんともかわいらしくてカゴにぽんっと入れてみる。

帰り道にちょうどある住宅街にぽつり佇む、大きめの八百屋は僕の行きつけだ。

早めに仕事が終わった日にはここに寄って、季節の変化を感じながらなにを買おうかとぷらぷらする時間がなんとなく好きだったりする。
三十男の一人暮らし。ささやかな愉しみだ。

茄子かあ。

ベタではあるが、ちょっと薄めに切って多めの胡麻油でざっと炒める。フライパンが熱いところに醤油ざっと。
茄子の甘みにあの醤油が焦げた香りが合わされば、それだけでご馳走だ。

小さめに切って塩をぱらり。確か前に仕事で瀬戸内に行ったときに美味しい塩があったはずだから、あれを使おう。
暑い日が続いているし、刻んだ大葉もたっぷり入れて一晩おけば、いい感じの漬け物になるだろう。

メインはどうしたものか。
焼き茄子もいい。
オイスターソースで炒めて、中華風に。
うん? 中華か。
麻婆茄子があったな。
麻婆豆腐に押されて、気がつけば今年はまだ食べていないかもしれない。

あれはあれでなかなかいい。

あのくたりとして、噛むとじゅわりとくる茄子は豆腐にはない良さがあるし、なによりご飯がすすむこと受け合いだ。
では、麻婆茄子の素は、と……

ない。

麻婆豆腐は四川と広東を用意しながら、麻婆茄子の素はない。
カゴの中の茄子にちらりと目をやると、どこか捨て猫みたいにさみしそうだ。

大丈夫。ちゃんと食べるからね。
などと一人で思っていると茄子という字面すらどうにも女の子みたいに見えてくる。

やってみようじゃないか、麻婆豆腐の素で麻婆茄子を。

確か、麻婆豆腐よりも少し甘めなイメージだ。
さてさて、なにでそれを補うか。
黒糖をちょこっと入れてみるか。
本来的には甜麺醤なのだろうが、そんなものはないし、買う気もない。
どうせ、使いきれずに冷蔵庫の肥やしになるに決まっている。
とすると……
冷蔵庫の奥に黒い味噌。たしか、八丁味噌のようなものが眠っていたはずだ。
あいつを試してみよう。

豚の挽き肉は粗挽きを買って、白ねぎを一束と、ニラも忘れちゃいけないね。

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帰り道には日も沈みつつあり、トンボが飛んでいる。
少し秋がはじまっている。そんな空気を感じつつ、買い物袋を抱えて帰る。
いやいや、いけない。
ビールを買い忘れている。家の手前のコンビニに寄っていこう。

あの甘辛い味わいに合いそうなのは、きっと黒い星のビールだろう。
350mlにするか、500mlにするか。
500mlは途中でぬるくなりがちだ。
しかし、350mlは少し物足りない気もする。
ちょいと贅沢に350mlを2本買うのはどうだろう。
うんうん。
それくらいがちょうどいいような気がする。

そうこうしてると夕方から夜に差し掛かってきている。

さあ、おうちに帰ってお料理だ。

家に着くなり、キッチンへ。
座ってしまうと、どうにも腰が重くなる。

まずはフライパンに胡麻油。
そして、ニラの下の方を細かく刻んで入れておく。
捨ててしまう人もいるようだが、弱火でじっくりやってやるとニンニクの代わりになってなかなかいい。
油がふつふつとしてきたら、豚の挽き肉をどさっと。
平らにして、あまり混ぜすぎないように。焦げ目をつけた方が噛んだときにぐりっとする食感が出る。あの感じがいい。

ねぎは斜めに切って、一束まるまる使い切る。
青いところもお構いなし。
ちょっと固いのもまたいいじゃないか。
ねぎがくたっとしてきたら いよいよ茄子のご登場。
茄子は切り口からすぐに弱ってくるので、直前に切る。
ヘタも食べられると誰かに聞いたので、とっておいてみよう。
確か、テレビで水につけても意味がないとか言っていたので、切った先からぽこぽことフライパンへ。

ここからは中華料理屋よろしく、強火で一気に炒めていく。

 じゃっじゃっじゃっ

          ぱちぱちぱち

   じゅううぅぅ

ちりちりちり

        じゃじゃっ じゃ

火と食材とフライパンとで奏でる音を愉しみながら、仕上げに麻婆豆腐の素を。
やわらかい味に仕上げたかったので広東風で。
さらに八丁味噌をちょこっと入れて、また、じゃっじゃっじゃ。

美味しい匂いがキッチンに漂ってくる。

最後にニラの柔らかい部分をぱらりとかければ、無骨な、でもどこか格好良さすらある大胆な佇まい。

お皿なんかに移さずにフライパンごと。
いただきます。

帰ってきて、すぐに冷凍庫入れた黒い星のビールをぷしゅっと。
料理で熱くなった体にきんきんのビールが沁み渡る。
くうっとなったところに茄子をがぶり。
想定通りのじゅわりとした食感に想定以上の美味しさがやってくる。

これはいけると確信しつつ。
ぐいぐいと箸をすすめる。

挽き肉の絡まったニラとねぎをぱくり。
ビールをぐびり。
茄子をもいっちょ。
ビールをぐびぐび。

快楽的なループにあえて、身をまかせてしまおう。

もう一本のビールもぷしゅっと。
手に持つ缶の冷たさもまた、心地よい。

少し辛くなってきた舌を冷たいビールがリセットする。
第2ラウンドだ。

ぐびり ぱくり むしゃむしゃ じゅわり
ぐびりっ むしゃあ
また、ぐびり

はああ。
ごちそうさま。

さすがに歳なのか、ぜんぶは食べ切れない。

まあいい、冷蔵庫で一晩寝かせて、明日は炊きたてのごはんでいただこう。
真ん中に卵がつるんっとのっていれば言うことなしだ。

まだ、20時前。

ぷらりと近所を散歩するか。
誰かと連絡をとってみるか。
はやめの風呂でも入ってみるか。

などと考えながら、ソファーに寝転んで、見るともなく、テレビを見る。
そんな時間もいいものだ。

だって、明日はまたあの美味しいループがやってくる。

なすがままに。わがままに。

あらためて、ごちそうさまでした、と声に出して言ってみた。


ソウダルア(出張料理人/イートディレクター) 

98b27bdf40a47a8b70393cba77138563 大阪生まれ。5歳の頃からの趣味である料理と寄り道がそのまま仕事に。“美味しいに国境なし”を掲げ、日本中でそこにある食材のみを扱い、これからの伝統食を主題に海抜と緯度を合わせることで古今東西が交差する料理をつくる。現在は和紙を大きな皿に見立てたフードパフォーマンスを携え、新たな食事のあり方を提案中。


【フードパフォーマンス映像】
https://vimeo.com/275505848

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