世界の金融市場が混乱している。きのうの日経平均株価は一時600円超も急落し、2万円の大台割れ寸前に迫った。米国の株価も今年最大の下げ幅を記録した。
引き金となったのは、トランプ米大統領による中国への圧力強化だ。
トランプ氏は先週、新たな対中制裁関税を9月に発動すると表明した。中国からのほぼ全ての輸入品に制裁関税を課す異常事態となる。
中国が対抗して米農産物の新規購入停止を発表すると、今度は中国を為替操作国に認定した。中国が輸出に有利になるよう、人民元を11年ぶりの安値に誘導したと判断した。制裁も発動でき、対立をより先鋭化させるものだ。制裁効果を薄める人民元安の阻止も目的とみられる。
米中は6月、貿易戦争の一時休止でいったん合意していた。トランプ氏が強硬姿勢に転じたのは、大統領選へのアピールも狙いだろう。
深刻なのは、米中対立が貿易だけでなく通貨まで拡大したことだ。
米中貿易戦争の根底にはハイテクを巡る覇権争いがあり、事態をこじれさせていた。そこに国の主権にかかわる通貨が加わると解決がさらに遠のき、市場の不安を増幅させる。
市場の混乱は、貿易戦争による景気の悪化に拍車をかける。世界経済が悪循環に陥りかねない。
とりわけ身勝手な理屈を繰り返してきたトランプ氏の責任は重い。
対中圧力を強める直前、米国の中央銀行は10年半ぶりの利下げを実施した。トランプ氏が中央銀行の独立性も顧みずに促していたものだ。
強硬策に出ても、利下げすれば米国経済だけは持ちこたえ、大統領選にも不利にならない。そう判断したのなら大国として極めて無責任だ。
さらにトランプ氏は以前から「ドル高は米国に不利」と公然と不満を唱え、利下げを求めてきた。ドル安誘導とみられても仕方がない。
中国の為替相場は当局が管理し、日米のように自由な取引ができない問題があるのは確かだ。大国に見合った改革を進める必要がある。
だからといって一方的制裁は問題の解決にならない。各国は利害の対立しやすい為替政策を主要20カ国・地域(G20)などで協議し、協調を保ってきた。脅しで譲歩を迫る手法では国際秩序は成り立たない。