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少子化やグローバル化などに対応するための「大学改革」は避けて通れないが、受験生にとって重要なのは入試の変化を伴う改革だろう。学部改組や募集方式の変更など、2020年度入試(20年4月入学)の方向性を検証した。
大学が優秀な学生を獲得するには、多くの志願者群からの選抜が不可欠だ。他方、志願者を集めるには、受験生のニーズに応えなければならない。IT技術の発達や少子高齢化、グローバル化が進む中、受験生の関心事は、急速に変化する社会に対応できる能力の獲得。実際に大学もそうしたニーズに応えるため、改革を進めている。具体的な形として目に見えるのが、各大学が行う学部・学科の改組や入試の変更といえる。20年度入試に伴う諸改革を眺めると、キーワードは「理系」と「グローバル」人材ということになりそうだ。
まず、理系人材を養成する学部に注目すると、東京都市大は工を理工に名称変更し、既存の学科を独立させて建築都市デザインを新設。武庫川女子大は生活環境の建築学科を建築学部にする。21年度には関西学院大が、現在の理工を改組し、理、工、生命環境、建築の4学部を設置予定だ。代々木ゼミナール教育総合研究所の主幹研究員・坂口幸世さんは言う。
「理工系学部の学科を独立させて学部にすることで、多様な教育・研究が可能になり、学びの幅と深みを増すことができます」
東京工科大はコンピュータサイエンス、応用生物、デザインの3学部において、これまでの学科一括から、専門分野を細分化した専攻単位の募集に変わる。早い時期から専門性の高い教育・研究を始めることが狙いだ。龍谷大は理工を先端理工に改組。多様な学習ニーズに対応した分野横断型の専門教育を行うため、縦割りになりがちな学科制を廃止し、従来の枠を超えて先端技術を学べる課程制を導入する。その他の理系学部では、神奈川工科大が健康医療科、摂南大は農を新設予定だ。
入試面では、慶応義塾大の理工が変わる。同大は近接分野の学科をグルーピングした「学門」ごとに募集を行うが、これまでは学門1~5という名称で、学べる内容が分かりにくかった。20年度からは、学科のグルーピングを見直した上で、A~Eまでの各学門に「物理・電気・機械分野」や「情報・数学・データサイエンス分野」など、教育・研究内容が分かる名称が付記される。
「各学門の学びの内容が分かりやすくなると、学門間で受験生に人気がある分野とない分野の序列が生まれるかもしれません。人気が高い学門は入試が難化する可能性があります」(代ゼミの坂口さん)
19年度入試では、学科を1~7類にまとめて募集していた東京工業大が、理、工、物質理工、情報理工など、名称から教育・研究内容が判断しやすい学院制に移行した。これにより、受験生の人気が高い情報系の情報理工学院(9.8倍)と人気がない生命理工学院(2.5倍)の間で大きな志願倍率(志願者数÷募集定員)の差が生じた。慶応義塾大も情報系の学門の人気が高くなる可能性がある。情報系の新設では、立命館大・理工が数理科学科にデータサイエンスと数学の2コースを設置する。
理系人材は、文系学部でも注目されている。
「これからの経済活動でデータサイエンスの知識が必要になることもあり、理系的な素養が求められている。既存の文理融合型の東京理科大・経営の人気が高く、理系人材は社会科学系でも注目されています」(代ゼミの坂口さん)
20年度は、成蹊大が経済を経済数理と現代経済の2学科に改組し、さらに、経営を新設。共立女子大はビジネスを設置予定だ。入試面では、東北大・経済が個別試験の科目を数学、理科、外国語に設定した理系入試を実施。早稲田大・政治経済は、21年度入試から導入される大学入学共通テストの数1・Aを必須にするとしている。
首都大東京が都立大に戻り人気上昇確実
もう一つのキーワードであるグローバル人材養成の面では、成蹊大がグローバル教育プログラム「EAGLE」を立ち上げる。「2教科型グローバル教育プログラム統一入試(G方式)」で選抜された学生が各学部に所属しながら、プログラムに参加する。グローバル人材の養成を意識した入試では、日本女子大が全学部で「英語外部試験利用型一般入試」を実施。明治大・国際日本や早稲田大の文化構想と文なども、英語民間検定試験のスコアを活用する入試を実施することで、「聞く、話す、読む、書く」の4技能を測る。
20年度開設予定のグローバル系学部には、専修大・国際コミュニケーション、神奈川大・国際日本、中京大・国際、甲南女子大・国際、西南学院大・外国語などがある。専修大の国際コミュニケーションは、都心の神田キャンパス(東京都千代田区)の新校舎に設置。神奈川大の国際日本は、21年度のみなとみらいキャンパス(横浜市)の開設と同時に、横浜キャンパス(同)から移転する。ともに利便性の高いキャンパスへの設置、もしくは移転が予定されているため、人気が高まりそうだ。
さまざまな改革によって人気が上がっている大学を見てみよう。「志願者数連続増加ランキング」によると、東京工芸大は7年連続で志願者が増えている。特に19年度入試では、1年次に厚木キャンパス(神奈川県厚木市)、2年次から中野キャンパス(東京都中野区)で学んでいた芸術を、4年間通して中野キャンパスで学ぶとしたことから志願者が大幅増となった。
ランキング1位の福岡工業大は13年連続。龍谷大と桃山学院大は8年連続で2位タイ。7年連続で志願者を増やした大学には、前出の東京工芸大のほか、追手門学院大や神戸学院大など6校がある。連続増の背景には学部新設・改組、入試改革、キャンパス移転、リニューアルなどが挙げられるが、外部から見えにくい取り組みを地道に続けてきたことも大きい。
最後に「伝統回帰」により志願者増が確実視される、首都大東京について触れておこう。大学名を元の東京都立大に戻すことによって受験生の注目度がアップする、と代ゼミの坂口さんは見ている。
「『東京都立大』という伝統ある名称に戻すことは、受験生に受け入れられるでしょう。学ぶ内容が分かりにくかった学部名称を、18年度にシンプルな名称に変更したこともあり、多くの志願者が集まることは間違いありません」
改革の成否は志願者数に表れる。20年度入試の動向には今から要注目だ。【大学通信・井沢秀】
※2019年7月7日号「サンデー毎日」より転載。20年度入試の主な大学の学部学科改組・入試変更点に関する表は、実際の誌面で確認してください。