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的川博士の銀河教室

560 人類初の月面着陸から50年/4

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アラームでも「ゴー!」

 司令船から離(はな)れて月面に向けて降下を開始した月着陸船「イーグル」。着陸まで7分半。コンピューターが突然(とつぜん)警報を発し、「1202」という数字を告げました。船長のニール・アームストロングが、「プログラム・アラーム1202の意味を教えてくれ!」と叫(さけ)んでいます。

     無数のスイッチが並ぶ計器盤の真ん中に“ABORT”と書かれた赤い大きなボタンがあります。これを押(お)すと、緊急(きんきゅう)退避(たいひ)プログラムが作動し、月着陸は中止されます。地上の管制センターの人々(ひとびと)の頭に、着陸中止の考えがちらつきました。管制全体を指揮しているディレクターはジーン・クランツという人です(写真1)。彼(かれ)をはじめとするみんなの視線が、1人の人物に注がれました--スティーブ・ベイルズ。26歳(さい)のコンピューターエンジニアです。彼の役目は「ガイドー」(ガイダンスオフィサー)。誘導(ゆうどう)を担当しています。

     ベイルズは、別室に待機している同僚(どうりょう)のジャック・ガーマンにとっさに呼びかけました。「ジャック、1202って何だっけ?」。ジャックが数秒後に答えました。「スティーブ、あれだよ、あれ。過負荷でリスタート!」。すぐにベイルズも思い出しました。1カ月前の地上訓練の時に、まったく同じアラームが鳴ったことがあったのです。他の誰(だれ)も覚えていませんでしたが、この2人だけは鋭(するど)く記憶(きおく)にとどめていました(写真2)。しかも、その訓練の際のメモを、ガーマンはきちんと保存していました(写真3)。

     月着陸船のメインコンピューターが過負荷状態にあるという警報です。あまりにたくさんやるべきことが指示されたので、すべてをこなせなくなっています。その場合、いったん1202という警告を出しておいて、コンピューターは再起動し、大事な計算から順番に処理を続行するというたくみなソフトウエアが組(く)み込(こ)まれていました。

     なぜ過負荷になっているかは不明ですが、画面を見る限り、動きは正常。--これだけのことが、ベイルズの頭に瞬時(しゅんじ)にめぐりました。いまコンピューターは、月着陸に必要な自動操縦を優先して実行している--ベイルズは確信をもって顔をあげました。ほぼ同時に、ジーン・クランツの怒鳴(どな)り声--「警報1202の解決策は? ガイドー?」。

     全員が崖(がけ)っぷちに立った気分になった瞬間(しゅんかん)、ベイルズが椅子(いす)の中でもぞもぞと動き、「ゴー!」と叫(さけ)びました。見事なソフトウエアと奇跡(きせき)的な若者たちの記憶のよみがえり。「イーグル」の着陸オペレーションは続行されました。(つづく)


    的川泰宣(まとがわやすのり)さん

     長らく日本の宇宙開発の最前線で活躍(かつやく)してきた「宇宙博士」。現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の名誉(めいよ)教授。1942年生まれ。


    日本宇宙少年団(YAC)

     年齢・性別問わず、宇宙に興味があればだれでも団員になれます。 http://www.yac-j.or.jp


     「的川博士の銀河教室」は、宇宙開発の歴史や宇宙に関する最新ニュースについて、的川泰宣(まとがわやすのり)さんが解説するコーナー。毎日小学生新聞で2008年10月から連載(れんさい)開始。カットのイラストは漫画家(まんがか)の松本零士(まつもとれいじ)さん。

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