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晴レルデ

おもい-つくる/21 「無理」「でけへん」とは言いたくない

左は硬い紙を重ねた年賀状。右は「バー荻窪」の名刺。上に箔押しをして、下のように出来上がる=写真・岩本浩伸さん

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 アートディレクターのシマダタモツさんの話を続ける。名前がカタカナなのはなぜ?

    「デザインの公募で入選して、最初に名前が載ったのが漢字で嶋田保。パンチがないというか。名前売りたかったんで」。ギラギラしてた? 「ギトギトでした」

     師匠の事務所を辞めてからは、店のロゴを頼まれたら「俺の自由にさせてくれ。その代わりカネは要らん」が口癖だった。

     目指すのは「見たことないものを作りたい」。だからカネにならない仕事も流さない、仕事の大小に関わらず全知全能を傾ける。

     で、「無理」とか「できない」と言われるのが嫌い。「可能性はないわけじゃない、まずやってみよう」と思うから。そこのところはマリさん(築山万里子さん)も似ている。

     マリさんも「やってみないとわかれへんから、でけへんとは言いたくない」と思うから、アサヒ精版印刷のスタッフにも「無理ですと言うな!」と発破をかける。

     似た者同士。シマダさんが「変わったことしたい時は相談に乗ってもらえる」と言えば、マリさんは「シマダさんが無理言ってるとは思ってない。こんなんしたいって言うてはるだけ。私は、それをできるかもって思うので」。って言うてましたよ、とシマダさんに告げると「ホンマに無理やったら受けへんしね」と笑い飛ばすのだ。

     シマダさんが事務所を引っ越した翌年の年賀状は、例のオリジナルの黄色とグレーを裏表に配し、硬い紙をミルフィーユ状に5ミリに重ねた、とてつもなく特殊な印刷物だった。もちろん、こんなのを頼めるのはアサヒ精版しかない。

     担当の佐伯尚平さんが「裁断する機械の刃が壊れる」と泣きつき、最初の1センチから半分に厚みを減らしても、そんなのに歯が立つ刃はなかなかなく、佐伯さんが探しに探して実現した。

     もひとつ、シマダさんらしい細かいこだわりの仕事が、北新地のバー「荻窪」の名刺だ。漢字の横線が多いのを逆手に取ったデザイン。漢字の「荻」とアルファベットの「OGI」は白、「窪」と「KUBO」はシルバーと色が違う。

     写真を見比べてほしい。漢字もアルファベットも、いっぺんに印刷していないのがわかる。後から色付きの箔(はく)を圧着させる箔押しという工程が加わっているのだ。

     これを手掛けたのがアサヒ精版の協力工場の「中西加工」(大阪市生野区)。俗に箔押し屋さんと呼ばれる。社長の中西雅春さんは「アサヒさんはちょっと特殊な印刷しはるから、たまに困ってるんやけど」と苦笑いする。

     こちらは手動のプレス機で箔を熱転写する。小さな名刺に1枚ずつ箔を押すのだ。「きれいに合わすのは100%無理なんです」と、この仕事を頼み込んだ佐伯さんが言うほど。特にアルファベットの「OGI」を、正確に真ん中に押すのは至難の技。微妙に左右どっちかに寄るのだという。

     中西さんは「これまで荒波を船が渡っていくみたいに……」とアサヒ精版からの仕事を荒波に例え、ひとつため息をついて「そうは言うても、変わったもん作りたいっていう気持ちは、みな持ってるから」と続ける。みんな同じところを目指してるからできることなのだ。

     シマダさんだって、この箔押しが難しいのはわかってて「難しいことをやらないと、新しいと感じない。チャレンジしてもらわんとね」と平然。とんでもない世界ではある。<文・松井宏員/写真・岩本浩伸/デザイン・シマダタモツ>

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