そう思い、中華屋の店先からさらに四〇〇メートルほど行ったエリアにある二階建ての賃貸共同住宅へ向かい、黙々と歩いた。建物名は白馬荘というアパートだ。
正確な築年数を訊(たず)ねる気にもならぬほど古びたそのアパートに部屋を借りたのは、緊縮派として低家賃に心ひかれたからというわけではない。ここの家賃は別にやすくはない。戦慄(せんりつ)的なまでにぼろいくせに、それに見あった額に設定されているとは思いがたい強気の賃料を月ごとにおさめさせられている。銀行ひき落としではなく、大家に手わたしするのが決まりだ。
そんな物件にもかかわらず、三軒茶屋駅から徒歩一〇分という利便性が目くらましになっているのか、入居を希望する物好きは空室が出るたびにあらわれるようだ。おまけに九つある貸し室のうち六部屋の住人は、住みついてだいぶ経(た)つ変わり者ばかりらしい。多少は多めに支はらってもいいと納得できる程度にひとを惹(ひ)きつけるなにかが、ここにはあるのかもしれない。一階の角部屋に住んでいるがめつい大家夫婦に月々ぼられ…
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