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終わらない氷河期~今を生き抜く

「他の世代が理解できる現状発信が必要」 取材記者座談会

ウェブ連載「終わらない氷河期」に参加した牧野宏美記者=東京都千代田区で2019年8月9日、根岸基弘撮影

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 7月31日以降、7回にわたりお伝えした連載「終わらない氷河期~今を生き抜く」。現場の取材にかかわった記者たち自身も同じ就職氷河期世代だ。同世代として何を感じ、今後どのような対策が必要と考えるのか。それぞれが語った。【牧野宏美、江畑佳明、吉井理記、和田浩幸/統合デジタル取材センター】

--取材現場で強く感じたことは何か。

牧野 第1回の非正規雇用を繰り返す生活保護のシングル女性、第3回の元ネットカフェ難民の男性、第7回の「派遣かふぇ」主宰の派遣社員女性の取材を担当しました。非正規シングル女性の取材では、職歴を聞いてノートにメモするだけで5ページに及び、過酷な話ばかりで胸が痛みました。派遣会社から仕事の約束を2度ほごにされており、つい「なんでそんなひどいことに」と私が派遣会社への怒りをあらわにしても、女性はあきらめたような表情だった。「長く生きても50歳まででいい」と言われた時は返す言葉もなく、もっと早い段階で支援の手が届いていれば、と思わずにはいられませんでした。男性はネットカフェ難民の生活から抜け出した後、仕事にやりがいを感じるようになった、と話をしていた時の表情が明るく、希望が持てました。派遣社員の女性は穏やかな雰囲気の方だったが、仲間を集めたり国会議員に訴えたりする行動力に驚きました。派遣労働の制度への疑問や怒りの大きさをひしひしと感じました。

江畑 NHKが約10年前、非正規雇用や未婚化が進む状況について、不安定な35歳に焦点を当てて番組を放送していたのを記憶しています。税収や消費が落ち込み、中間層がやせ細る社会になるという深刻な内容でした。今回、私が取材したのは46歳の男性(第4回)で、当時まさに35歳前後だった人で、「10年前の問題が解決されないまま年月がたっている」と痛感しました。その男性はこちらの目をまっすぐに見て、質問にひとつひとつ丁寧に答えてくれた。話していて論理もしっかりしており、真面目できちょうめんな印象を受けました。正直、「なぜこの人が職を転々としなければならなかったのか」と疑問に思った。家族や世間は「本人の努力が足りない」と冷ややかな視線を向けることが多いが、それは違うのではないか。これだけ非正規や名ばかり正社員が多いという実態は、もう個人の責任レベルではなく、社会の問題に違いないと思います。

和田 私はひきこもりの経験があるNPO職員の岡本圭太さん(第5回)と、ラブホテル社員の船戸光明さん(第6回)の2人を取材しました。岡本さんは就職活動の失敗、船戸さんは前職の過重労働が引き金となり、ひきこもり状態が深刻化していったケースです。原因はそれぞれだが、一度引きこもると、アルバイトに踏み出すことすら難しくなるなど、経験が共通していることが印象的でした。今年3月に公表された内閣府の調査では、40~64歳でひきこもり状態にある人が全国推計で61万3000人に上ることが判明している。今は2人とも仕事で活躍しているが、誰もがひきこもりになってもおかしくないのだと実感しました。

吉井 私が取材した現在農家アルバイトの女性(第2回)は1992年卒で、建設会社に一度は正社員で就職して現場監督を目指したが、根強い女性差別が原因で退職してからは非正規の仕事を転々とせざるを得ませんでした。その後も「雇い止め」に遭い、ついにはうつ病に。氷河期ど真ん中の世代ではないが、ひとたび正社員でなくなると、不景気の影響をもろにかぶるという事例です。企業社会に根強い女性差別がはびこり、企業のコストカットが非正規雇用の人を犠牲にして成り立っているという事実が浮かび上がります。世代の枠を超えた問題をはらんでいると思います。

江畑佳明記者=根岸基弘撮影

--記者たちも氷河期世代。自身や周囲の体験で思い出されることは。

江畑 私は大学院を経て99年に入社しました。大学卒業は97年ですが、勉強を続けたいというより、就職状況がよくないので先延ばしのために大学院に進学した、というのが本音。ただ、2年後も状況は良くなりませんでした。就職は依然厳しく、周囲には公務員を目指す友人が多かったですね。後輩には山一証券の内定を得た後に破綻し、内定取り消しになったケースもありました。私は十数社エントリーして、現在の会社に内定を得たが、「なんとか引っかかった」という感じ。

吉井 私は99年に大学を出て、いったん九州の新聞社に就職しました。全国紙の採用試験には軒並み落ちて、その会社だけが拾ってくれました。文部科学省によると、この年の大卒者の就職率は60・1%。大学3年だった97年には、山一証券や北海道拓殖銀行などが破綻し、「日本はこれからどうなるんだろう」と友人と話し合ったことを覚えています。希望の会社や職種に就職できた友人は多くなかったし、まだ当時は採用を新卒者に限る企業も多く、就職口がなくてやむを得ず就職留年せざるを得ない級友もいました。とにかくどこでもいいから就職できればいいや、という感じ。それゆえ、やっぱり仕事が合わず、後で職を転々とすることになった知人もいます。

牧野 99年末から2000年春にかけて就職活動しました。1~2学年上の先輩たちが苦労し、内定を得られなくて「就職浪人」していた人もいたので、自身も厳しいのは覚悟していたつもりでした。でも実際に面接などで何度も落とされると「自分は必要とされていない人間なんだ」と思ってしまい、つらかった。氷河期世代が自己肯定感が低い、というのはうなずける。周囲も「とにかくここで失敗したら終わりだ」と悲壮感が漂っていたような気がします。

和田 私が就職活動に臨んだのは、03年冬から04年春。準備不足のまま受けた会社はことごとく不採用。ただ、就職氷河期最終盤の年で、そうした雇用環境が当たり前のように捉えられ、「就職浪人」する人も珍しくなかった。結局、毎日新聞社に内定し、就職したが、新卒だった私に社会経験はなく、採用と不採用を分けたのは紙一重の差に過ぎないと思います。

吉井理記記者=根岸基弘撮影

--氷河期世代と他の世代との間で、何か違いを感じることは。

和田 入社後に感じたのは、バブル期に入社した先輩の多さです。入社した05年に初任地の北海道に配属された新人は私1人だけだったが、06年、07年入社の後輩は2人ずつ配属された。しかし、08年のリーマン・ショック後はまた新卒採用が絞られた。雇用環境次第で採用人数が大きく変わることを感じました。

吉井 バブル世代をターゲットにした雑誌の女性編集長に取材したことがあります。編集長自身がバブル期に新入社員時代を過ごした人で、当時を振り返り、「仕事先でお食事をごちそうになったり、パーティーに呼ばれたりするのはしょっちゅう」「当時はタクシーは乗り放題、経費も落とし放題だったけど、今の若い子はお金がなくてかわいそう」なんてことをあっけらかんと言う。正直、カチンと来ましたね。こちらは公共交通機関が専門で、あなた方がいい思いをしたツケを今、俺たちが払っているんじゃないかと。もちろん世代に関係なく苦労はあるし、良い思いをした人ばかりじゃないのは分かっているが、正直、釈然としませんでしたね。

牧野 バブル世代は大量採用されており、多くの企業で氷河期世代に比べ人数が多いと感じます。氷河期世代は苦労して仕事を得た分、「役に立たない」と思われないよう必死に働き、堅実でつつましい人が多いように思います。バブル世代やその上の世代は右肩上がりの経済を経験しているので、先行きの不安感などは氷河期世代よりは強くない印象です。

江畑 入社6年目で地方支局から大阪本社に異動した時、職場の名簿を見てやたらバブル世代の社員が多いことに驚きました。先輩が多く後輩が少ないため、「相当長いこと下働きが続くだろうな」と思いました。

--「氷河期世代問題」解決に向け、処方箋はあるだろうか。

和田浩幸記者

牧野 ある氷河期世代の作家にインタビューした時、「バブル世代は氷河期世代のつらさを理解していない。意識のギャップがある」と指摘していたのが印象的でした。氷河期世代の「不遇」は客観的にデータでも裏付けられている。今回の企画の狙いも同様だが、他の世代が理解できるよう体験や現状を発信し、社会全体で解決していくべき問題だととらえてもらうことが大事ではないでしょうか。

江畑 同世代の中でも、「勝ち組」「負け組」の経済格差が大きく開いていると思う。学生時代の友人は、大手生命保険会社に勤務し、妻は専業主婦で子どももおり、東京23区内に新築マンションを購入したという「勝ち組」。ただ、いったん「負け組」に入ると、そこから勝ち組にはい上がるのは相当難しい。政府は正社員の増加を目指す対策を進めていますが、もっと早く取り組んでいれば、という思いがあります。

吉井 時代や世代だけの問題ではなく、働く人を大切にしない日本社会の普遍的問題がこの世代で一気に噴出した、と私は考えます。政府は氷河期世代について、3年間で30万人の正規雇用を増やすという目標を掲げています。大きく見える数字ですが、この世代の非正規雇用は約371万人もいる。残りの340万人はどうするのだろうか。数値目標も結構だが、現在ある法律をきちんと守ることが優先。労働契約法では「有期雇用の非正規社員でも5年以上勤務すれば、企業は無期雇用に転換しなければならない」という「5年ルール」があるが、この適用を免れるため、勤務期間が5年になる直前にクビを切るような脱法行為が行われています。罰則付きの規制を導入するなどの対策が急務です。

和田 就職氷河期に新卒で内定を得た人とそうでない人は、その時点ではどちらも社会経験がなく、能力差もあまりなかったはず。しかし、取材した岡本さんのように就職活動に失敗し、その後引きこもりになった人は多い。岡本さんらが語るように、一度引きこもり状態になると、1人で抜け出すのは簡単ではない。多くの人がそうした認識を共有し、社会と関わる「最初の一歩」を支援する取り組みが必要だと思います。

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