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文学に陰あり

丸谷才一「笹まくら」 隠岐で花見の徴兵忌避者 /島根

 笹枕(ささまくら)とは、旅先で寝ること。草がカサカサ鳴る音が不安な感じ。小説、評論、翻訳で活躍した丸谷才一(1925~2012年)の出世作が、長編小説「笹まくら」(1966年)である。

 この作品には二つの時間の川が流れている。一本は平和な昭和40年ごろ。浜田庄吉は45歳で、東京の私立大学の庶務課に勤めるサラリーマンだ。冒頭の一文は<香奠(こうでん)はどれくらいがいいだろう?>。かつて恋人だった阿貴子の訃報が届いたところ。有能な課長補佐である浜田の周辺では、課長の昇格人事を巡ってさざ波が立ち始めた。

 もう一本の川は戦争の時代だ。昭和15年秋から20年夏の敗戦までの5年間、若き浜田は徴兵から逃亡していた。杉浦健次の変名でラジオや時計の修理人あるいは砂絵の露天商として全国を旅していたのだ。戦争は国家による殺人であるが、これに駆り出される徴兵を拒否すれば重罪になる。国家の本質を示すと言えるだろう。国家や権力は目に見えないものではなく、その実行部隊は杉浦の身近にいる憲兵や刑事ら小役人だ。庶民の相互監…

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