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社説

終戦の日と戦後処理 世代をまたいで辛抱強く

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 終戦の日である。戦禍にたおれた人びとを追悼するとともに、日本が歩んだ過去への内省や、不戦の決意が交差する日だ。

 今年はここに韓国との深刻な不和が加わって、日本の座標軸をより複雑なものにしている。

 戦後74年。昭和から平成、令和へと時代を経ても、戦争の後始末がいかに困難であるかを物語る。一度手を染めると、修復するのに何世代もかかるのが戦争の宿命だ。

 ここで日本の戦後処理がどうなされたか改めて整理しておきたい。

 日本を占領した当初、米国などが考えた対日賠償政策は、被害国の感情を反映して日本の経済力を最低レベルに抑える懲罰的な内容だった。

歴史リテラシーの不足

 ところが、朝鮮戦争の発生と占領経費の増大が、米国の政策転換をもたらす。冷戦によって戦略的な価値が増した日本を経済的に自立させることが米国の利益に変わった。

 こうして1951年9月調印のサンフランシスコ平和条約は、日本に十分な支払い能力がないことを認めて、役務提供という日本に有利な賠償方式が採用された。

 日本は77年までかけてアジア諸国への賠償総額15億ドルを完済した。少なくない金額だが、相手国が購入する日本製品の代金を政府が円で支払う形だったため、日本企業のアジア進出の後押しにもなった。

 若い政治家には「日本は過酷な条件で十分に償った」と思い込んでいる人がいる。日本に寛大だった講和内容の理解不足だ。政治家は歴史へのリテラシーを高める必要がある。

 韓国との国交正常化も、サンフランシスコ条約に沿ってなされた。条約が、かつて日本の統治下にあって戦後に分離された地域に対する特別な取り決めを求めていたからだ。

 植民地支配の性質をめぐって交渉は難航し、65年の日韓基本条約調印までに14年を費やした。実質的には米国の影響を受けた3カ国条約ではあったが、大局的な見地から双方が妥協した歴史的意義は大きい。

 昨年10月に出た韓国最高裁の判決は、その土台を揺さぶっている。元徴用工の問題は条約の枠内で「解決済み」というのが両国の見解だったのに、「司法権の独立」を盾に日韓関係の一方的変更をもくろむ文在寅(ムンジェイン)政権の対応は極めて遺憾だ。

 ただし、日本が文政権の外交的不作為をなじるだけでよいだろうか。韓国は中国と並んで日本の近代史における「特別な国」である。

 戦時中の日本には、70万人と推定される朝鮮半島出身の徴用工のほかに、強制連行された約3万9000人の中国人労働者がいた。

 過酷な労働を強いた日本企業に対して、中国人被害者が起こした裁判のうち、2000年に花岡事件の鹿島、09年に西松建設、16年に三菱マテリアルとの和解がそれぞれ成立している。韓国とは対照的だ。

 中国は日中共同声明で戦争賠償の請求を放棄し、韓国は請求権協定で3億ドルの無償資金を受けているという事情の違いはある。中国は連合国の一員で、韓国と日本は交戦状態になかったとの区別も可能だろう。

先人の努力を忘れずに

 それでも日韓両国がこのまま正面対決を選んで、「歴史」のトゲが一層深く突き刺さって抜き差しならなくなることを私たちは恐れる。

 花岡和解では政治家ルートが機能した。相談を受けた土井たか子元衆院議長が後藤田正晴元副総理に話をつなぎ、後藤田氏が鹿島の石川六郎元会長を説得したという。

 また朝鮮半島や台湾出身の元軍人・軍属に弔慰金を支給する特別立法(00年5月)は、野中広務元官房長官の熱意から生み出された。

 衆参国会議員709人のうち戦前・戦中生まれは現在わずか28人、4%足らずになっている。政界から戦争の記憶は薄れる一方だが、条約から漏れた課題に目を凝らしてきた先人の努力を忘れるべきではない。

 「加害者と被害者の間の和解には、世代を越えた双方の勇気と努力を必要とする。加害者にとっては、過去と正面から向き合う勇気と反省を忘れない努力、被害者にとっては過去の歴史と現在を区別する勇気であり、相手を許して受け入れる努力である」。栗山尚一(たかかず)元外務次官は「外交フォーラム」誌でこう訴えていた。

 戦争のもたらす被害はあまりに大きく、国家間のある時点での処理には限界がある。少しずつでも辛抱強くトゲを抜こうとする努力が、平和国家としての土台を強くする。

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