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オーケストラのススメ

~34~ 30回目のPMF バーンスタインの愛弟子、マリン・オルソップの登場

山田治生

ピクニックコンサートから、オルソップとPMFオーケストラ (C) PMF組織委員会

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 最晩年のレナード・バーンスタインが札幌の地に創設した国際教育音楽祭「PMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル札幌)」が今年で30回目を迎えた。節目の年を祝して、今年は、バーンスタインの愛弟子マリン・オルソップ、第3代PMF芸術監督のクリストフ・エッシェンバッハ、そして、現・芸術監督のワレリー・ゲルギエフらが、PMFオーケストラの指揮台に立った。

 この音楽祭の主役は、PMFアカデミーで学ぶ若い音楽家たちによって構成される、PMFオーケストラに違いない。国際的なオーディションによって選ばれたアカデミー生は、日本、韓国、中国、香港、台湾、ウズベキスタン、アルメニア、イスラエル、米国、カナダ、エクアドル、ホンジュラス、ブラジル、フランス、イタリア、スペイン、ポルトガル、ドイツ、オーストリア、スイス、ベルギー、ハンガリー、セルビアなどの国と地域から集った。

 オルソップは、第1回PMFに参加して以来、29年ぶりの登場。第1回では、バーンスタインのアシスタントを務めたり、コンサートを指揮したりもした。その後、女性として初めてアメリカのメジャーオーケストラ(ボルティモア交響楽団)の音楽監督に就任するなど、女性指揮者のトップランナーとして活躍。現在は、ボルティモア響のほか、サンパウロ交響楽団の首席指揮者を務めているが、今年秋には、サンパウロを離れ、ウィーン放送交響楽団のシェフに就任する。

 今回は、ジョン・アダムズの「ショート・ライド・イン・ア・ファスト・マシン」、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲、プロコフィエフの交響曲第1番「古典」、R・シュトラウスの「ばらの騎士」組曲というプログラムを指揮した。アカデミー生たちにいろいろな時代のさまざまなスタイルの作品を弾いてもらいたいという意図での選曲だった。

第1回のPMFに参加したオルソップ(右から3番目)。バーンスタイン(同7番目)の姿も=1990年 (C) PMF組織委員会

 7月13日午後、札幌芸術の森・野外ステージで「ピクニックコンサート~レナード・バーンスタイン・メモリアル・コンサート~」がひらかれた。「ピクニックコンサート」は、PMFの象徴的な演奏会といえるだろう。札幌芸術の森・野外ステージは、アメリカのタングルウッド音楽祭と同様に前方の椅子席と後方に広がる芝生席からなり、芝生席の隅ではテントを張って聴いている人たちもいる。PMFの野外コンサートはまさに札幌の夏の風物詩となっている。

 今年は30回目を記念して、創設者の娘、ジェイミー・バーンスタインさんがあいさつを行った。第1部には、アカデミー生たちとアカデミーの教授を務める、ウィーン・フィルやベルリン・フィルのメンバーたち(「元」を含む)とのアンサンブル、郷古廉のヴァイオリン独奏、PMFヴォーカル・アカデミーによるオペラ・アリア、佐藤俊太郎指揮札幌交響楽団メンバーによる演奏があった。

 そして第2部に、PMFオーケストラがTシャツ姿で登場。「ショート・ライド・イン・ア・ファスト・マシン」はミニマル的な作品。オルソップは、慌てることなく、一息で描き切る。チャイコフスキーで独奏を務めた郷古は堅実なヴァイオリンを奏でる。音はロマンティックで艶がある。

 プロコフィエフの「古典」は、スケールの大きな演奏で、作曲者のユーモアを楽しむ。そして、最後の「ばらの騎士」組曲ではアカデミーの教授陣(ヴァイオリンのライナー・キュッヒル、ヴィオラのハインツ・コル、フルートのアンドレアス・ブラウ、ホルンのサラ・ウィリスなどなど)が参加。ここでもオルソップは、オーケストラにしっかりと弾かせ、ロマンティックで大きな音楽を作り上げていた。アンコールにブラジルのエデュ・ロボの「ぺ・ジ・ヴェント」。

世界各国から集まったPMFのアカデミー生たち (C) PMF組織委員会

 翌14日には、札幌コンサートホールKitaraで「PMF GALAコンサート」がひらかれた。こちらは、国内トップクラスの音響を誇るKitaraでの演奏会。野外でのリゾート型コンサートと音響の優れたホールでの都市型コンサートの両方が楽しめるのが、PMFの特徴である。第1部では、小山実稚恵や郷古のソロのほか、PMFウィーン&ベルリン(教授陣)によるシュトラウス兄弟の音楽があり、キュッヒルがアンサンブル(チェロ以外立奏)を力強くリードした。

 第2部は、オルソップ&PMFオーケストラが前日と同じ曲を演奏。アダムズ作品は、昨日よりもキレがよく、推進力もある。チャイコフスキーでは、郷古が、音響の良いホールでの演奏ゆえか、力まず、洗練された音を奏でる。プロコフィエフでは、オルソップは、機能性を追求するのではなく、オーケストラに上滑りしない音でしっかりと弾かせる。それでも第4楽章は爽快に進めた。「ばらの騎士」もじっくりと厚みのある音楽。オルソップがオーケストラをゴージャスに鳴らした。とりわけ、三重奏の場面の音楽は内容が濃く、感動的であった。アンコールは今日もエデュ・ロボ。オルソップが音楽に対する情熱を持ち続け、オーケストラトレーナーとしても優秀であることが示された。

 演奏会の後、「PMF2019教育セミナー」として「マリン・オルソップとの対話~バーンスタインの教え、指揮者としての歩みと今後~」と題するトークショーが開催され、筆者はその司会・進行を務めた。音楽家の両親のもとに生まれたオルソップは、9歳のときに、バーンスタイン&ニューヨーク・フィルの「ヤング・ピープルズ・コンサート」に行き、指揮者になる決意をしたという。彼女にとってのアイドルは、バーンスタインとビートルズ。1987年のシュレスヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭でバーンスタインと初めて会い、1990年のPMFに同行した。女性指揮者のパイオニアとしての特別な意識はなかった。「ただ指揮者になりたかっただけ」と語る。

 音楽監督を務めるボルティモア響では、子供たちに楽器を弾く機会を与えるプロジェクトに取り組んでいる。今年もシカゴ響と共演するバーンスタインの「ミサ曲」についても語った。最後に会場の聴衆からの質問を受け付けたが、一人ひとりの質問を注意深く聴き、それに対して真摯(しんし)に答える彼女の姿は、師匠バーンスタインを彷彿(ほうふつ)とさせた。

 PMFオーケストラは、その翌週(7月20、21日)、エッシェンバッハの指揮でマーラーの交響曲第8番「千人の交響曲」を演奏。バーンスタインが得意としたマーラーの交響曲を手掛けてきたPMFオーケストラ。これによって、第1番から第9番までの9曲の演奏を完遂した。

 そして最後にゲルギエフとショスタコーヴィチの交響曲第4番に取り組んだ。ゲルギエフは、札幌公演(つまり札幌での最終日)の前日に来日し、札幌(7月31日)、東京(8月1日)、川崎(8月2日)の3公演を指揮した。筆者は最後の川崎公演を聴いたが、ショスタコーヴィチの第4番では、PMFオーケストラの個々のプレイヤーのレベルの高さが際立っていたにもかかわらず、オーケストラとしてのすごみがあまり感じられなかった。それは指揮者の責任に違いない。教育音楽祭の芸術監督ならば、もう少しじっくりとオーケストラと向き合うべきであろう。

筆者プロフィル

 山田 治生(やまだ はるお) 音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

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