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本村凌二・評 『楽園の歴史3 喜びへの希望』=ジャン・ドリュモー著、西澤文昭・永見文雄・訳

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 (新評論・9720円)

「天国」をめぐる心性史が語るもの

 前世紀末頃から、飢饉(ききん)よりも肥満で、疫病より老化で、戦死よりも自殺で亡くなる人が多くなったという。それなら、楽園のような世界が実現しつつあるのだろうか。だが、誰もそのような期待などいだいていないように思われる。

 本書は『楽園の歴史』三部作の最終巻にあたり、I「地上の楽園」、2「千年の幸福」を受け継ぐ3「喜びへの希望」である。I巻は「エデンの園」探しをめぐる人類の営みをたどり、2巻は「至福千年説」という異端思想が底辺にひそみながら、時代の節目に過激な社会運動として現れる姿を跡づけた。著者の旧作『恐怖心の歴史』に始まる遠大な研究計画の終着点になる3巻は「私たちは幸福を見ることができるだろうか」という課題の試みでもある。

 ベルギーの古都ゲントの聖バヴォン大聖堂には「神秘の子羊」とよばれる多翼祭壇画がある。その前に立ったとき、著者ドリュモーは眩暈(めまい)を感じたという。木立に囲まれた天国の草原が拡(ひろ)がり、後方には建物がそびえ立ち、天のエルサレムを思わせるらしい。中央には神の子羊が人々に崇(あが)められ、キリスト教における楽園のテーマを集大成する美しい絵である。ダンテ『神曲』の「天国篇」には天球と至高天をむす…

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