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的川博士の銀河教室

561 人類初の月面着陸から50年/5

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「最も大切なこと」優先のソフトウエア

 司令船から離(はな)れて月面に向けて降下を開始した月着陸船「イーグル」のコンピューターから、着陸の7分半前に突然(とつぜん)出た警報(アラーム)「1202」。ヒューストンの管制室のみんな(写真1)が、「すわ着陸中止か?!」と腰(こし)を浮(う)かしかけた時、着陸船の誘導(ゆうどう)を担当する若者スティーブ・ベイルズの口から出た判断は、「ゴー!」でした。

     ところが、その後もコンピューターは繰(く)り返(かえ)しアラームを叫(さけ)び続けたのです。そしてそのたびにベイルズは、断固として「ゴー!」と怒鳴(どな)り続け、着陸船「イーグル」に搭乗(とうじょう)した2人の飛行士(アームストロングとオルドリン)は、着陸任務を続行しました。

     ベイルズは、連続して出るアラームに対して、何を根拠(こんきょ)に「ゴー」を主張していたのでしょうか。それは、「独特のカン」とか「神頼(かみだの)み」などではなく、アポロ誘導(ゆうどう)コンピューター(AGC)のソフトウエアを設計したエンジニアの素晴らしい発想があったのです。

     アポロの時代のコンピューターの処理能力は、現在のスマホほどもありません(写真2)。だから人間を月に送る複雑なミッションが時々刻々(じじこくこく)要求する膨大(ぼうだい)な量の計算を実行するには、とても力不足でした。アポロのソフトウエア開発の責任者は、マーガレット・ハミルトンという女性です(写真3)。能力を超(こ)える要求に応えるコンピュータープログラムを作成するに当たって、彼女(かのじょ)はさまざまな独創的な工夫を織(お)り込(こ)みました。

     工夫の一つは、処理能力を超える要求が来た場合は、今どうしてもやらなければならないものを優先させて処理するという戦略です。優先順位の低いものは後回しにするのです。ただし、コンピューターに能力を超える要求が殺到(さっとう)していることを、飛行士や管制室に警告を発して「自覚」してもらうために、1201とか1202とかのアラームが組(く)み込(こ)まれました。こうして「注意しろ!」と言っておいて、コンピューターは当面最も大事な計算に集中するんですね。

     しかし飛行中には、各方面から計算の要求が寄せられます。この着陸寸前の大事な瞬間(しゅんかん)にも、実はコンピューターのことにそれほどくわしくない人たちから、AGCにとっては「ありがたくない処理」が次々(つぎつぎ)に要求されていたのです。しかもそのことを責任者のハミルトンすら知らされていなかったのです。それは、バズ・オルドリン飛行士からの希望でした。次回はそのことを話しましょう。(つづく)


    的川泰宣(まとがわやすのり)さん

     長らく日本の宇宙開発の最前線で活躍(かつやく)してきた「宇宙博士」。現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の名誉(めいよ)教授。1942年生まれ。


    日本宇宙少年団(YAC)

     年齢・性別問わず、宇宙に興味があればだれでも団員になれます。 http://www.yac-j.or.jp


     「的川博士の銀河教室」は、宇宙開発の歴史や宇宙に関する最新ニュースについて、的川泰宣(まとがわやすのり)さんが解説するコーナー。毎日小学生新聞で2008年10月から連載(れんさい)開始。カットのイラストは漫画家(まんがか)の松本零士(まつもとれいじ)さん。

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