メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

NYビート

「麻薬は合法化されるべきだ」 米国の麻薬汚染巡る死闘を書き続けてきた作家ドン・ウィンズロウ氏に聞く

米作家ドン・ウィンズロウ氏(提供写真)

[PR]

 メキシコの麻薬密輸犯罪組織(カルテル)のボスと米国の麻薬取締局(DEA)捜査官との死闘を20年以上にわたって書き続けてきた米作家ドン・ウィンズロウ氏(65)の新作「ザ・ボーダー」の日本語訳が7月中旬に出版された。ウィンズロウ氏に、米国とメキシコを苦しめる麻薬問題の解決法を聞いた。【ニューヨーク國枝すみれ】

取り締まりより消費を減らすための対策を

 ——「犬の力」「ザ・カルテル」に続く3作目「ザ・ボーダー」は、現代の米国を舞台に、社会をむしばむオピオイド(麻薬)問題と、その原因をメキシコ不法移民になすりつけるトランプ米大統領の政治に切り込んだ。なぜか?

 新しい状況が出現したからだ。メキシコではカルテルが細分化して混乱に陥り、死者が増えた。米国では麻薬の使用が拡大し、交通事故や銃よりも麻薬の過剰摂取で死ぬ人の方が多い。トランプ政権は国境の移民政策を変更した。だが、麻薬はメキシコの問題ではなく、米国の問題だ。だから3部作を締めくくる舞台を米国に持ってきた。

 ——新作では、トランプ大統領や娘婿のクシュナー氏に酷似した人物が登場。麻薬密輸犯罪組織のマネーロンダリング(資金洗浄)に関与する。

トランプ米大統領=AP

 これは小説だ。麻薬密輸の資金がトランプ氏のビジネスに入っている証拠はない。だが、汚いカネが米国の金融機関に入るのは事実だ。年に推計650億ドル(約6・9兆円)が麻薬の代金として米国からメキシコに流入し、その多くが米国の不動産や金融機関に投資や預金という形で環流する。これを止めることはとても難しい。

 ——カルテルに所属する者の資産を凍結し、没収してはどうか。 

 それでは、沈むタイタニック号の甲板でイスの整頓をしているようなものだ。問題の根源は、世界人口の5%弱に過ぎない米国人が麻薬の8割を消費していること。麻薬密輸や資金洗浄は消費の生成物にすぎない。需要があれば、売人が生まれ、商品ができる。

 ——米国は、麻薬の生産国や密輸業者をたたき、カルテルのボスを捕まえることに協力してきた。コロンビアの麻薬王パブロ・エスコバルは殺され、メキシコの麻薬王エルチャポは米国で終身刑となった。しかし、麻薬の米国流入は止まらない。麻薬との戦いが終わらないのはなぜか。

 戦い方が間違っているからだ。麻薬取締局(DEA)や警察の麻薬関連対策につぎ込む多額の予算を、米国人の麻薬消費を減らす対策に振り向けるべきだ。麻薬依存者の治療やカウンセリング、教育、経済開発だ。

 麻薬は合法化されるべきだ。禁酒法時代(1920~33年)、米国ではマフィアが拡大した。ビール生産会社が殺し合わないのは、合法ビジネスだからだ。麻薬は非合法だから、麻薬依存者は治療を受けづらく、カルテルのような凶暴な反社会勢力に利益を与える結果を生んでいる。ポルトガルでは麻薬を合法化した後、麻薬の使用は一時増えたが、その後に減った。

「国境の壁で解決できる」はうそだ

 ——麻薬問題において、米国はなぜ有効でない強硬政策を続けるのか。

 第一に、政治家が政策変更を主張すると、対抗馬から「弱腰」と責められ、選挙で負ける。第二に、保守層は麻薬を公衆衛生の問題ではなく、モラルの問題として善悪で判断しがちだ。この二つは変化しつつある。しかし、実は三つ目が最も難関だ。それは、麻薬密輸が巨大ビジネスであるのと同様に、麻薬取り締まりビジネスも一大産業だという事実だ。小さな町は、消滅した工場の代わりに民間会社が経営する刑務所を誘致しようと必死に競争している。

 ——トランプ政権の政策で、最も腹が立つものは何か。

 メキシコ国境を越えてきた移民の子供たちを親から引き離したこと。さらに、ヘロインの過剰摂取で子供を失った親に対し、「国境に壁を建設すれば問題は解決する」と、うそだと分かっているのに、主張することだ。麻薬の9割は国境の検問所を堂々と通過している。安っぽい政治的駆け引きに(麻薬や移民を)使い続けるのが、許せない。

メキシコと米国の国境に立つフェンス=メキシコ北部ティフアナで2018年11月、山本太一撮影

 ——「ザ・ボーダー」はトランプ氏に酷似した大統領が弾劾される気配で終わる。

 身体障害者やベトナム戦争時の戦争捕虜、先住民や女性を侮蔑し、移民の子供を親から引き離したトランプ氏は大統領として失格だ。だが、実際に弾劾されるかどうかは分からない。大統領を弾劾するプロセスは長くかかる。2020年大統領選のほうが早く来るかもしれない。再選はしてほしくない。

 ——3部作は小説という形をとっているが、実際に起きた事件を基に書かれているのがよく分かる。目に浮かぶようです。

 9割は事実だ。本を読み、新聞を読み、関係者から話を聞く。自分をメキシコの記者たちと比べることはない。書くことで殺される彼らは本当のヒーローだ。記者は事実を正確に書くことがゴールだが、小説家は興奮する小説を書くのがゴール。最終目的が違う。

 1998年、私が住むサンディエゴから遠くないメキシコの寒村で19人が殺害される事件が起き、「何が起きているのだ」と思って調べ始めた。当時は何も知らなかったから、最初の「犬の力」は完成までに6年かかった。書き終わると、毎回、これで終わりと思った。重い内容だし、エネルギーを搾り取られるから。2作目の最後で、主人公のDEA捜査官ケラーがカルテルのボスを殺し、本当に終わりだと思った。だが、ケラーの心の中で戦いは終わっていなかったのだ。

 ——登場人物で一番好きなのは誰か。

 私は読者を、この本を読まなければ、知らなかったであろう世界に連れて行きたい。登場人物の目を通じて世界を見るのが私のテクニック。だから書いているときは、登場人物に入れ込んでいる。DEA捜査官のケラーが3作全部に出てきたということは、21年もつきあっているわけで、おそらく彼と最も深い関係にあるということだろう。グアテマラの少年ニコ、メキシコの新聞記者パブロも好きだ。最初は小さな役柄だったのに、書き続けた。ケラーの恋人マリソルも尊敬している。メキシコ女性の勇気にはいつも感動する。

國枝すみれ

1991年入社。英字新聞毎日デイリーニューズ編集部、西部本社福岡総局で警察担当記者、ロサンゼルス支局、メキシコ支局を経て、2016年4月からニューヨーク特派員。05年、長崎への原爆投下後に現地入りした米国人記者が書いたルポを60年ぶりに発見して報道し、ボーン・上田記念国際記者賞を受賞。

おすすめ記事
広告
毎日新聞のアカウント
ピックアップ
話題の記事

アクセスランキング

毎時01分更新

  1. 即興、紙見ず3分間 小泉環境相 初国連演説手応え 内容は具体性なく

  2. 「消費増税ストップ!」 導入反対デモに600人 野党増税反対で一致

  3. キャバクラ暴行死 未婚10代母、遠い自立 娘残し無念

  4. 引率の女児4人にわいせつ疑い 兵庫尼崎市公立小教諭逮捕 研修施設で

  5. 「ポイント還元どうしたらいい」高齢者や生活保護受給者が困惑の声 消費増税

編集部のオススメ記事

のマークについて

今週のおすすめ
毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです