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「自ら考え、行動する」指導で、バスケット部を学生スポーツ屈指の強豪に 体育学部競技スポーツ学科 教授
陸川 章

2019年9月2日掲出

 自国開催だった2006年以来、13年ぶりのワールドカップ出場で、日本のバスケットボール界は近年にない盛り上がりを見せている。そのなかで、日本のプロバスケットのトップリーグ「Bリーグ」で40人以上の選手が活躍し、学生バスケット界を牽引しているのが東海大学バスケットボール部「シーガルス」だ。関東リーグ2部や3部に低迷していたチームを1部に昇格させ、インカレ5度優勝の強豪に育て上げたヘッドコーチ(HC)の陸川章教授に、指導方針や、これからの抱負などについて語ってもらった。【聞き手・中根正義】

 

アメリカ留学時に出会ったコーチから受けた影響が基盤に

──先生はアメリカにコーチング留学をされていました。ここ数年、スポーツを取り巻く環境は大きく変化し、指導者も昔のような精神論は否定され、体罰などに対しても社会の目が非常に厳しくなっています。現在の日本の指導者に求められることをどうお考えですか。

 私は上下関係の厳しい大学の出身でしたが、以前から理不尽な上下関係や、精神論を振りかざすような指導は好きではありません。現役時代のこと、バスケットのクリニックに行った時、小学生を殴る指導者を見たことがあります。その指導者に跳び蹴りしたくなるような衝動にかられましたが、「頼むから殴らないでください」と土下座したことがあります。この子たちが、バスケットの将来を担うということを考えれば、当然のことだと思いましたが、周囲は驚いていたようでした。 

 社会人時代、デイヴ・ヤナイという日系人で初めてNCAA男子チームのヘッドコーチになられた方から指導を受けました。しっかりと練習プログラムが組み立てられており、一つずつパズルを当てはめていくような練習方法で、これまで体験したことのなかったものでした。会社を辞め、CSULA(カリフォルニア州立大学ロスアンゼルス校)にコーチ留学に行った時、ヤナイさんが私に最初に言った「選手は機械ではない。人間だ」は忘れられない言葉です。私が指導者として歩む上で大きな柱となる言葉となっています。私たちコーチは選手より経験があるだけで、人としての差はないと思っています。

 今、自分で考え、行動できる、自分でモチベーションを上げることができる、そういう選手を育てることが何より重要だと思っています。私がなぜ大学生に教えたいと思ったか。それは、19歳から22歳の子どもから大人へと変わる多感な時期に、自分で考えて行動できる、周りを助けてあげたりもできる選手になってほしいからです。選手であると同時に、人として成長してほしいという思いがあったからです。

 

──東海大学バスケット部出身で、現在、B1・B2リーグに在籍している選手は40人以上になるそうですね。陸川先生が2001年にヘッドコーチに就任されてから、インカレで5回優勝しました。そして、Bリーグに数々の名選手を輩出し、竹内譲次、田中大貴の両選手 (アルバルク東京) やベンドラメ礼生選手 (サンロッカーズ渋谷)など日本代表で活躍する選手も数多くいます。ヘッドコーチやアシスタントコーチ、マネジャーなどスタッフも12、13人いるとのこと。これも、先生の指導があるからこそだと感じます。

 いやいや、彼らがしっかりとした考えを持っているからです。ただ、選手やスタッフたちには、「自分の道は自分で見つけて行くしかないのだから、自分を磨いて、考え行動することが必要だ」ということをよく話しています。我々はそのためのサポートはできるが、結局、決めるのは自分であり、自分の行く道にたどりつくには自分の力しかないわけで、それができる人になってほしいと、バスケット部に限らず、授業などでも話しています。

 東海大での4年間が、バスケットだけでなく、彼らの人生にとっての土台になってくれればいいと強く思っています。この4年間を踏み台にして、ジャンプして自分たちの行きたいところに行ってほしいと願っています。卒業後、バスケットを続けるにしても、そうでないにしても、自分の土台をしっかり持っていれば、何があっても崩れることはないと思います。

 

──陸川先生が恩師と言われるデイブ・ヤナイさんの影響も大きいのでしょうか。

 ヤナイさんがよく言っていたのは、人生にとって大事なことや考え方、態度をバスケットボールを通じて教えるということでした。

 第一は、プレーヤーとして全力を出し切ること。第二はビッグファミリーだということです。我々東海大チームも常々ビッグファミリーだと言っているのですが、スタッフや選手、応援してくださる方々、サポートしてくださる方々すべてを思いやり、助け合い、協力して団結する力を持たなければならないということです。私は、自分は親父で、選手たちは皆兄弟だと言うのですが、だからこそ間違っていたら叱ったり、助け合ったりする。兄弟だと思えば自然にそうできるだろうと。それがビッグファミリーということです。卒業してもそれは変わりありません。

 第三にヤナイさんは、わがままにならず、忍耐強く自分の役割を果たし、チームに貢献する──「無私の精神」が重要だと語っています。そして第四は「卒業すること」。人生において成績、試験、単位をしっかり取れるように面倒を見てあげる。アメリカではアシスタントコーチが1週間に一度全選手を教室に集めて、それぞれの勉強を見てあげています。アメリカのNCAAでは単位をきちんと取らないと試合に出られないので、皆が卒業できるようにサポートし、学生も努力しています。そして、最後に「絶対に楽しみなさい」と。4年間はあっという間に過ぎてしまうので楽しむことを忘れてはいけないですよね。

 

フェアプレーやスポーツマンシップを重視

指導者も学び続ける必要がある

──先生が現役の頃と比べても、今は学生気質も変わっているので、指導の上で難しいこともあるのではないでしょうか。

 まず、指導者は視野を広げ、新しい技術やルールなどの情報をしっかりキャッチして、学んでいかないといけないと思っています。それにプラスして、求められるのが「聞く力」です。今の選手たちはユーチューブなどで世界のトップ選手のプレーを指導者よりもよく見ています。彼らの方が我々より知っていることも少なくない。それに対して、聞く耳を持つ必要があります。基本は守りつつ、彼らのやりたい練習方法なども積極的に取り入れながら指導するよう、コミュニケーションを大切にしています。 学生によっては、ずっとNBAを見ている者もいて、本当によく知っています。一流のプレーを見て、それを採り入れた個人練習をする学生もいて、レベルは以前よりはるかに高くなっています。

 ヤナイさんが、「技術の山」と「心の山」を登りなさいとよく言っていました。「心の山」というのは、先ほど述べた素直さや仲間を助ける優しさです。この「技術の山」と「心の山」の両方を登ったとき、その先に「チャンピオンの山」が見えてくる。ただし、技術の山と心の山を登ったからといってチャンピオンになれるわけでなく、ここからもう一つ、「チャンピオンの山」を登るときにはチームの結束力が必要になってきます。このことは、選手たちにも良く話します。

 今は、「技術の山」がどんどん高まっている選手が多いのですが、同時に「心の山」も高めなければなりません。例えば、ミスをした時に、他の選手が言葉には出さなくても、態度、つまりボディーランゲージで示したものは非常に大きな影響を与えます。また、何かうまくいかないと皆がイラだったり、下を向いたりする。そうした時に、必ず相手の流れになります。だから、目を合わせるだけでもいい、そこで皆でもう一度、意志を統一するのです。そういうチームになることを願っています。

 

──東海大学体育学部は、フェアプレーやスポーツマンシップを重視して活動が行われ、いわゆる根性論に基づいたものとは一線を画しているように感じます。それが魅力であり、特色にもなっています。

 まず、副学長の山下泰裕先生(現・日本オリンピック委員会会長)がスポーツマンシップ、フェアプレーといったことを大前提として考えていらっしゃる方で、先生の姿そのものが東海大学スポーツをすべて表しているといっても過言ではないと思います。

 私が東海大学に赴任して20年目になりますが、キャンパスを含めて、人が大らかに育つという環境にあると感じています。キャンパスからは富士山が見え、海も近く、山並みも見える。恵まれた自然環境のなかで、学生はスポーツにも勉強にも打ち込めることは非常に大きなアドバンテージだと思います。

 また、教職員同士の仲が良いのも特長です。とりわけ体育学部は仲がいい。例えば、他のクラブが大会で優勝した時には、皆が心の底から祝います。ライバルというより同志、互いに高め合う仲間という環境にあります。毎週、種目間連携の戦術プロジェクトというものを行っていて、ラグビーやハンドボール、サッカー、バレーボール、バスケットボール、体操などのコーチが集まって、それぞれがテーマを出したり、世界の戦術を紹介したり、プレゼンして学び合っているのです。他学科の先生ともスキー実習などを通して連携しています。

 体育学部は2004年から5学科に分かれましたが、スポーツそのものはもちろん、スポーツを通した社会貢献、また「する」、「見る」、「支える」など、受験生が興味を持つ分野に必ず応えられる学科があります。スポーツに関心がある方は、是非、本学を目指してほしいと思います。

体育学部競技スポーツ学科 教授 陸川 章 (りくかわ あきら)

1962年3月11日新潟県生まれ。東海大学スポーツ教育センター 所長、東海大学男子バスケットボール部 監督。新潟県立新井高校でバスケットボールを始め、日本体育大学卒業後、日本鋼管(NKK)へ。日本リーグ優勝やMVP獲得などの実績を残す。日本代表には11年間在籍。主将も務めた。引退後はアメリカにコーチ留学、2001年から東海大学に赴任。2005年、06年、12年、13年、18年に全日本大学バスケットボール選手権大会を制覇。 現在は、U22日本代表強化委員長並びに全日本大学バスケットボール連盟強化部長も兼務。 2009、11年、17年のユニバーシアード大会男子代表監督も務めた。 ■主な所属学会:日本体育学会、日本コーチング学会、日本バスケットボール学会 ■主な著書として「ぐんぐんうまくなる!バスケットボール練習メニュー」(株式会社ベースボール・マガジン社)「みるみる上達!バスケットボール基礎からマスター(株式会社学研パブリシング)」「NBAバスケットボール コーチングプレイブック((株)スタジオタッククリエイティブ)」「僕らが部活で手に入れたもの((株)スタジオタッククリエイティブ)」