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的川博士の銀河教室

562 人類初の月面着陸から50年/6

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ソフトウエアが輝く日

 アポロ11号の最大のピンチだったあのアラームをめぐって、米国ヒューストンの管制センターと月面に向けて降下中の着陸船「イーグル」との緊迫(きんぱく)した会話が続く中、地球ではもう一つの闘(たたか)いが繰(く)り広(ひろ)げられていました。アラームには、アポロ誘導(ゆうどう)コンピューター(AGC)が関係していることは確かです。ソフトウエアを担当したMIT(マサチューセッツ工科大学)のIL(器械工学研究所)に、NASA(米航空宇宙局)から緊急(きんきゅう)電話が入りました。「相次ぐアラームの原因をつきとめてくれ!」

     ILでは、凄(すさ)まじい勢いでシミュレーションを実施(じっし)し、現象の再現を試みました。指揮をとるのはマーガレット・ハミルトン(写真1)。AGCのソフトウエアをつくりあげたILの最高責任者です。NASAからは5分おきくらいに電話が来ます。絶対につきとめなければなりません。

     ILのメンバーたちは、まず「テレメトリデータ」を見ました。驚(おどろ)いたことに、「ランデブーレーダー」がオンになっていました。着陸船(写真2)が月から飛び立って、月周回軌道(つきしゅうかいきどう)上で待機している司令船と合体するときに使うレーダーです。月着陸ができなかった時の緊急時(きんきゅうじ)にも使います。

     ILのみんなは、レーダーは着陸のための降下中はオフになっていると思(おも)い込(こ)んでいました。NASAに確認すると、オルドリン飛行士(写真3)の要求でオンになっているというのです。ランデブーを担当しているオルドリンは、万が一、着陸が途中(とちゅう)で中止になった場合に備えて、レーダーをオンにしておきたいと、用心深く準備したようです。そのせいでコンピューターに過度の負担がかかっていたのです。

     そしてこのとき、AGCのソフトウエアに見事な設計がなされていたことが誰(だれ)の目にも明らかになりました。負担が過度になっても混乱せず、優先順の高い計算を断固として処理し続ける--マーガレットが組(く)み込(こ)んだ「非同期処理」と呼ばれる工夫です。ただし、マーガレットは、その際「余計な計算をしていますよ」という警告を出すために、アラーム1202や1201などを発して注意を促(うなが)す配慮(はいりょ)もしました。だから、管制センターで誘導を担当するベイルズもガーマンも、月着陸船が正常と確信できたのでした。

     そしてアームストロングが着陸の少し前になって「手動操作」に切(き)り替(か)えた途端(とたん)、コンピューターの作業負荷が一気に減り、予想通りアラームは消えました。アポロ計画には、このような技術者の隠(かく)れた努力や工夫が無数にあったのです。最大の危機を乗(の)り越(こ)え、いよいよ着陸船「イーグル」は、月面へ進みます。(つづく)


    的川泰宣(まとがわやすのり)さん

     長らく日本の宇宙開発の最前線で活躍(かつやく)してきた「宇宙博士」。現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の名誉(めいよ)教授。1942年生まれ。


    日本宇宙少年団(YAC)

     年齢・性別問わず、宇宙に興味があればだれでも団員になれます。 http://www.yac-j.or.jp


     「的川博士の銀河教室」は、宇宙開発の歴史や宇宙に関する最新ニュースについて、的川泰宣(まとがわやすのり)さんが解説するコーナー。毎日小学生新聞で2008年10月から連載(れんさい)開始。カットのイラストは漫画家(まんがか)の松本零士(まつもとれいじ)さん。

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