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「ふつう」に生きるということ

/18 この社会と向き合う

「ふつう」に生きるということ18回

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 「いえのないおばさん」とのはなしになってしかたのないかれ食事しょくじがあまりすすみません。

 「どうしたの? おなかすいてないの?」

 「あのさ、ひとついていい? 病気びょうきやケガがつらくても、大人おとなはたらつづけなくちゃいけないの?」

 突然とつぜん質問しつもん、しかもむずかしい中身なかみに、おかあさんはをパチパチさせています。

 「まあちょっとくらいのがまんは必要ひつようね。あなたの学校がっこうのおかね自分じぶん病気びょうきになったときのそなえもいるし……」

 「ちょっとのがまん? おかあさんすごいねつでも会社かいしゃくよね? ぼくってるひと病気びょうき仕事しごとやすんだらクビになったんだって。それがちょっとなの?」

 「うーん。でも、みんなに迷惑めいわくをかけずにきていくって大事だいじなことでしょ?」

 迷惑めいわくをかけない。おかあさんも公園こうえんのおばさんとおなじことをいました。なぜ大人おとなたちはつらいのにがんばるのか、なぜ病気びょうきやすんだら迷惑めいわくなのか、かれにはまるでかりません。

     *

 こたえがつからないかれは、つぎじゅくで、ともだちにおな質問しつもんをしました。

 「わたしならさっさとつまらない会社かいしゃやめて、もっとたのしい仕事しごとをさがすけどな」

 「でもさ、家族かぞくのためにおかねがいるから、簡単かんたんにやめられないっておかあさんが……」

 彼女かのじょはさえぎるようにいました。

 「えー。だってわたしはたらいて、おとこひとはたらけば、どっちか仕事しごとやめてもなんとかなるし」

 おとうさんのいないかれには、彼女かのじょかんがえはすこしかたよっているがしてしかたありません。

 「1ひとり給料きゅうりょうでもきられるのに、2ふたりはたらくからでしょ。どのいえもそんなにお金持かねもちとはかぎらなくない?」

 「そりゃそうよ。だからぐみにならないように、じゅくって受験じゅけんするんじゃん。あなただって中学ちゅうがく受験じゅけんするんでしょ?」

 じゅくおくむかえされる彼女かのじょとちがって、かれいえ裕福ゆうふくではありません。受験じゅけんしないとけのようながしますが、かれはおかねのことが心配しんぱいで、おかあさんにせずにいました。

     *

 結局けっきょくはお金持かねもちじゃなきゃダメなのかなあ、あきらめかけたそのときです。

 「あっ、そういえば!」

 かれ先生せんせいはなしおもしました。ヨーロッパにある北欧ほくおうという地域ちいきはなしです。税金ぜいきんたかいけれど、病院びょういん学校がっこうなどの「くらしにかかるおかね」がとてもやすいというはなしでした。

 「生活せいかつ心配しんぱいがなければ、仕事しごと無理むりしなくていいかも! だから北欧ほくおうひとたちはたか税金ぜいきんをがまんできたのか!」

 かれだって100えんのアイスが108えんになるのはいやです。でもわりに、くらしや将来しょうらい心配しんぱいがなくなれば、はたらくこと、きていくことのしんどさから自由じゆうになれます。おかあさんも。公園こうえんのおばさんも。かれははじめて税金ぜいきんをはらう意味いみかったようながしました。

     *

 かれはうれしそうにいました。

 「税金ぜいきんをちょっとたかくするわりに、学校がっこう病院びょういんにかかるおかねやすくするのはどう? そうすれば、いやな仕事しごとをがまんしてつづけなくてもよくなるんじゃない?」

 「えー。やすくなるのはまずしいひとでしょ? わたしががんばっていい会社かいしゃはいって、サボったひとのためにおかねをはらうの? 病院びょういん大学だいがくのおかねくらい自分じぶんでかせげばいいじゃん」

 「いい会社かいしゃはいれなかったひとがサボったとはかぎらないよ。がんばってもうんわるひとはいるし。それに病院びょういんだい授業料じゅぎょうりょうやすくなるのは全員ぜんいんだよ。いまだって小学校しょうがっこうはみんなタダでしょ。おなじようにすればいいんだよ」

 おんなはなかなか賛成さんせいしてくれません。

「もらうのはみんなとおなじでも、がんばったひとがたくさんおかねられるんでしょ? がんばったひとそんをするって絶対ぜったいへんよ」

 「だからさあ、そうじゃなくて……」

     *

 はなしはかみあいません。「努力どりょくすればしあわせになれる社会しゃかい」と「だれもが自由じゆうはたらける社会しゃかい」、どちらもすばらしい社会しゃかいです。ですが、おな才能さいのうおな努力どりょくでも、まれたいえひとつで結果けっかわる、そうおもかれは、成功せいこう努力どりょくだけの結果けっかとはおもえません。反対はんたい勉強べんきょうくるしんでいる彼女かのじょには、成績せいせきわるたちは努力どりょくりないえているようです。

 どちらがただしいかはぼくにもかりません。ですが、かれは、おかあさん、先生せんせい公園こうえんのおばさん、ともだちとたくさんはなしました。「自分じぶん」じゃなく「みんな」がしあわせになる方法ほうほうを、「いまのままでいいんじゃない」ではなく、「ぼくはこうしたい」を必死ひっしかんがえています。将来しょうらい「えらく」なるのは彼女かのじょかもしれません。でも、「りっぱ」なかれぼく応援おうえんしています。


 財政学者ざいせいがくしゃ井手英策いでえいさくさんが、社会しゃかい仕組しくみをものがたりをつづります。

ぶん井手英策いでえいさくさん

1972年生ねんうまれ。慶応大学経済学部教授けいおうだいがくけいざいがくぶきょうじゅども3にんのおとうさん。

川辺洋平かわべようへいさん

 1983年生ねんうまれ。イラストレーター。

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