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クトゥーゾフの窓から

北の島々は(6) 日露の防衛交流 関係拡大の起爆剤となるのか

クレムリンの近くで合同演奏する陸上自衛隊の中央音楽隊とロシア軍の音楽隊=モスクワで2019年8月28日、大前仁撮影

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 日露両国は今年1月に平和条約交渉を始めたが、歴史認識や安全保障を巡る問題が障害となり、進展の兆しが見えない。打開策を模索する日本側からは、関係拡大の起爆剤としてロシアとの防衛交流に期待する声が出ている。日露の防衛交流を巡る現状を探ってみた。

 陸上自衛隊の中央音楽隊は8月下旬からモスクワを訪れ、中心部の「赤の広場」で開かれた軍楽祭スパスカヤ・タワーに参加した。別途、ロシアの軍楽隊と同じく中心部にあるクレムリン近くで合同演奏に臨み、東京五輪(1964年)の開会式で演奏された「ファンファーレ&マーチ」やロシアの作曲家チャイコフスキーの作品を演奏し、聴衆から大きな拍手を送られた。

 陸自音楽隊の軍楽際での演奏について、ロシア国防省のマヤーキン軍楽局長は「とても良かった。日露の相互理解につながってくれればいい」と評価。音楽隊の樋口孝博隊長も「大きな拍手をもらい、歓迎されていることを実感した」と満足げだった。軍楽祭への参加は、今年5月の日露防衛相会談で合意した防衛交流の一事業である。日露首脳が9月5日に会談することから、話題に上る効果も狙っていた模様だ。

20年超続けてきた捜索・救難訓練

 1990年代後半に始まった日露の防衛交流では、海上自衛隊とロシア海軍の艦船が実施する捜索・救難の合同訓練が中心プログラムとなってきた。訓練は98年に始まり、ロシアが2014年にウクライナ南部クリミアを強制編入した余波で一時中断されたが、これまで19回を数える。

 今年は海上自衛隊の護衛艦すずなみが6月にロシア極東ウラジオストクに寄港し、ロシアの駆逐艦と周辺海域で訓練を実施した。これまでの積み重ねにより、通信訓練などの精度や質が上がっているという。日露両国は18年11月、東アフリカ・ソマリア沖で海賊対策の合同訓練も実施しており、訓練の幅を広げようとする姿勢がうかがわれる。

 日露間では防衛閣僚や軍高官の接触も盛んになっている。両国は13年秋に外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を初めて開いた。中断時期もあったが、17年以降は毎年開いている。一方でロシアは過去に米国や欧州の主要国とも2プラス2を開いてきたが、クリミア編入の影響を受け、14年以降は開いていない。ロシアとの関係拡大を目指す安倍政権の姿勢を反映した形だが、一部の日本外交筋は「ロシアが防衛交流で日本を重視していることの表れだ」と前向きに評価した。

難しい防衛交流の格上げ

 ただし日露関係全体は停滞の時期に入ったといえる。安倍政権は平和条約交渉について、歯舞群島と色丹島の「2島返還」による解決策を選び、プーチン露大統領が訪日する今年6月までの「大筋合意」を狙ったが、失敗に終わった。安倍晋三首相は9月にプーチン氏との再会談に臨むなど平和条約の締結を諦めたわけではないが、有効な打開策は見つかっていない。このような状況で、日本の政府当局者の間では、防衛交流が対露関係の起爆剤となることへの期待が生じているのだ。

 一方で日露の防衛交流が今後も着実に進展するのかは不透明な点が多い。海上の捜索・救難訓練は20年超も続けてきたが、これよりも一段階上の防衛協力に進もうとすると、軍事演習にまで引き上げざるを得なくなる。安倍政権は対露関係の拡大に取り組んできたが、日本外交の基本は対米同盟に置かれており、ロシアと対峙(たいじ)する主要7カ国(G7)の結束も重視しなければならない。「西側の一員という立場を考えると、あまりにも突出した行動は許されない」。複数の防衛当局者はこう語り、日本がロシアとの合同演習にまで踏み込むのは難しいとの見方を示す。

交流を続けるロシアの意図は

 ロシアは日本との防衛交流を続けながら、安全保障面で日本をけん制するシグナルも送り続けてきた。16年にはロシア軍が北方領土の国後、択捉両島に地対艦ミサイルを配備した。今年7月にはロシア軍機が初めて中国と合同パトロールを実施し、島根県・竹島(韓国名・独島)の周辺空域も飛行した。ロシアが北東アジアへ関与する度合いを一段階上げ、米国の覇権に挑んでいるとの見方も出ている。ロシアの軍事評論家フェリゲンガウエル氏は合同パトロールについて「露中が更に軍事的に近づく一歩となった。日本はロシアと中国を引き離したい狙いを持つが、これまでのところ成功していない」と指摘する。

 それでは、なぜロシアは日本との防衛交流に取り組んできたのだろうか? フェリゲンガウエル氏は「国防省のイニシアチブというよりも、大統領府の指示で行動している。政治的な意味合いが強い」と分析する。米国との対立を深める中で、ロシア国防省は米国の同盟国である日本との間で、本当の意味で防衛交流を深めているわけではないという。ロシア大統領府には、日本との防衛交流によって西側諸国の結束を揺さぶる狙いがあるようだ。

 プーチン政権は平和条約締結に先立ち、北方領土問題に特化せず、経済や安全保障、人的交流を含めた包括的な関係拡大を進めるよう日本に求めている。このような状況下では、日露の防衛交流はロシアとの関係を拡大する起爆剤にはならず、協力案件の一つに過ぎないといえるだろう。日本の外交当局者は次のように表現してみせる。「防衛交流(の効果)は確実に安打となるが、決して本塁打にはならない」【大前仁】

大前仁

モスクワ支局記者 1969年生まれ。1996年から6年半、日経アメリカ社でワシントン支局に勤務。毎日新聞社では2008年から13年まで1回目のモスクワ支局に勤務。

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