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目は語る

9月 「ヴェネツィアの魔術師」フォルチュニ展 マルチ芸術家の全貌を紹介=高階秀爾

マリアノ・フォルチュニ「デルフォス」、1910年代、島根県立石見美術館

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 <スカーレット・オハラは美人ではなかった>。これはマーガレット・ミッチェルの長編小説「風と共に去りぬ」の冒頭の一句である。それに続いて、華やかな衣装姿のスカーレットの魅力が述べられる。

     <花柄のドレスは(中略)スカーレットの十七インチのウェストを完璧に引き立たせ、きつく締め上げた胴着(ボディス)が、十六歳の娘にしては豊かな胸を強調していた>(岩波文庫、荒このみ訳)

     ウェストを背後から「きつく締め上げ」るこの胴着、つまりコルセットが19世紀の女性ファッションの主流であり、そのため着たり脱いだりする際には人の助けが必要で、また平素の行動も強く制限されていた。

     女性をこの窮屈なコルセットから解放するため、ゆるやかなドレスを生み出したのがフランスの服飾デザイナー、ポール・ポワレである。1906年のことであった。

    マリアノ・フォルチュニ「アンリエット・フォルチュニ、芸術家の妻」1915年、フォルチュニ美術館 (c )Fondazione Musei Civici di Venezia - Museo Fortuny

     同じころ、スペイン生まれでヴェネツィアで活躍していたマリアノ・フォルチュニ(1871~1949年)が、ギリシャ・デルフォイのアポロン神殿の近くで発見された紀元前470年ごろの等身大ブロンズ直立像「デルフォイの御者」(デルフォイ考古学博物館蔵)の豊かなプリーツ状のひだで覆われた着衣にヒントを得て、ドレス「デルフォス」を発表し、これはその後長くヨーロッパの女性たちに愛用された。

     フォルチュニはほかにもチュニック、コート、室内着、ケープ、ショールなどのデザインに斬新な感覚を発揮し、またファッションの分野ばかりではなく、絵画、建築、舞台美術と衣装、染織文様、さらには写真の表現においても、多彩な足跡を残した。いわば極めて豊かな発想力と現実感覚に恵まれたマルチ芸術家である。

     現在。東京・丸の内の三菱一号館美術館で開かれている「マリアノ・フォルチュニ 織りなすデザイン展」は、かつては彼の仕事場兼住居であり、今ではヴェネツィア市博物館群財団が管理するフォルチュニ美術館所蔵の作品、資料を中心に、ヴェネツィアのカ・ペーザロ国際近代美術館や日本国内の美術館などの所蔵品も加えて、この多才な芸術家の活動の全貌を紹介しようとするものである(10月6日まで)。

     内容が多岐にわたっているため、展覧会の構成もやや錯綜(さくそう)しているが、ヴェネツィアとの関連に焦点を絞った序章「マリアノ・フォルチュニ ヴェネツィアの魔術師」に続いて第1章「絵画からの出発」では過去の巨匠の作品模写から裸婦像の試み、それに彼が用いたヌード・モデルの写真が興味を引く。第2章「総合芸術、オペラ ワーグナーへの心酔」では、特に「パルジファル」や「神々の黄昏」の舞台美術にも見られる世紀末的幻想性が時代の雰囲気をよく反映している。

     「最新の染織と服飾 輝く絹地と異国の文様」と題された第3章は、服飾デザイナーとしての彼の本領がよく発揮されており、内容的にも最も充実していて見応えがある。特に、その豊穣(ほうじょう)な作品の核となる「デルフォス」の考案が妻アンリエットの示唆によるとする指摘は、「デルフォス」をまとったアンリエットの肖像画と共に見逃せない。

     第4章「写真の探求」に続く第5章「異国、そして日本への関心と染織作品への応用」では、当時ヨーロッパで流行したジャポニスムの影響を多くの資料で明らかにしている点が特に評価されてよいであろう。(たかしな・しゅうじ=大原美術館館長、美術評論家)

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